サキュバス、受肉の手伝いをする事になりました4
第一回輝宅予算会議開会。
「えーそれでは、マリの義体費用四億円の調達をどうするかだが……」
「ピカ太さんワープアなのにどうやって稼ぐつもりなんですか? 転職でもします?」
「転職でどうにかなるならいくらでもするが、億稼げる職業なんて俺は野球選手くらいしか思いつかんぞ」
「お! いいですね! 今から大リーグ養成ギプスつけましょう!」
「あれ効果ないんだってよ。肉が挟まって痛いだけらしいぞ」
「え? なにその夢ぶち壊し情報……聞きたくなかった……」
「お前そんなに巨人の星好きだったのか? 」
「お父さんが持ってた漫画を読んでドハマりしちゃって……かっこいいですよね左門」
「新約だとあいつだけデザイン変わらないんだよな」
「それがいいんですよ。芋くさいキャラクターは親近感を感じます」
「怠惰で放蕩癖のあるお前がどこに左門と近いものを感じたんだよ」
「え? 私めっちゃ努力家で倹約家なんですけど?」
「……」
そんなに自信満々にされちゃ、俺はもう何も言えねぇよ。
「そんな事よりどうするんですかお金。私とムー子のスパチャ合わせても千二百万くらいですよ? 四億なんてとても……」
「そんなにないですよ今。私この前使っちゃいましたもん」
「は? 何に?」
「ウマの娘に八百万課金しました! おかげで全キャラクターの星とレベルMAXです! ぶい!」
「……」
「あ……ちょ、か、課長……し、死ぬ……」
……死んだ。うーむ見事なチョーク。神速の貫手から正確に頸動脈を抑えいっきに締め上げるとはやるなゴス美。
「で、どうするんですか? 私達の収入じゃまったく足りないんですが」
「株とか仮想通貨に手を出すとかどうだ? なんか今流行ってるらしいぞ」
「絶対に止めておきなさい。確実に失敗しますから。素人がリングでボクサーと戦うようなものだとナニワ金融道にも書いてありました。金融商材に安易な気持ちで手を出したら破滅まっしぐらです」
「いや、小額投資なら……現物で手堅く続けていけばあるいは……」
「それで、四億稼ぐのに何年掛けるつもりですか? 具体的なプランをまとめて出してもらっていいですか?」
「……すみません。私が間違っていました」
さすが課長だ。金が絡むとスゴクコワイ。
「もっと現実的に考えましょう。確かに四億は大金ですが、やって稼げない金額じゃありませんから」
「なんて頼り甲斐のある言葉。中間管理職をやっているだけある。しかし、反対しないどころか協力的なんだな課長。てっきりブチキレるかと思っていたが」
「若くして死んだ子供のささやかな願いなんですよ? 叶えてあげたいじゃないですか」
「……その通りだ」
その通りなんだが、お前一応悪魔だろ? いいのかそんな善い事言って。なんか今日のカレーも優しい味がしたし、全然善良じゃないか。なんでサキュバスなんてやってんだ?
「そのためにもお金が必要だってのに……ムー子あんた……あ? まだ寝てんのかテメー!? おら起きろクズ! いつまで死んでるつもりだコラ! 歯を磨いて動画撮れや! これから使い込んだ金稼ぐまで寝かせねぇからな!? 次似たような事したら歯全部抜いてドヤ街の格安ピンサロに卸すから覚悟しとけよ!?」
……いや、悪魔だわこいつ。
「ただいま」
「お、マリお帰り。遅いじゃないか。どこ行ってんだ?」
「唐揚げ屋さんの前」
「唐揚げ屋? なんだ急にどうした。食べたいのか唐揚げ」
「ううん。この前までタピオカ屋さんだったところが、急に唐揚げ屋さんになってて……」
「……そうか。業務転換かな? まぁよくあるよくある。身体手に入れたら他の店行こうな?」
「他の店も、みんな唐揚げ屋さんになってた……台湾唐揚げとか……中津唐揚げとか……」
「……」
「私、まだタピオカ飲んでないのに……唐揚げ革命の末……タピオカ……絶滅……唐揚げキングダム……爆誕……」
「いや大丈夫だって! タピオカまだあるって! キャッサバ農家の人達がめっちゃ頑張って育ててるから! 乾燥タピオカ絶賛輸入中だから! 今度また新しいタピオカ屋探しにいこう! な!?」
「……うん」
「よーし! じゃあ今日はもう寝ろ! 身体は俺がなんとかしてやるから! その時がお前の新たな誕生日になるから! そうなったらタピパやろタピパ! ついでに唐揚げもだ! 唐揚げにチーズもトッピングしよ! それでいいよな?」
「唐揚げはいらない……」
「いらないかー! そっかー! 余計なもの付け足しちゃったなー! すまんすまん! 許してくれるだろうか!? 許してくれるね!? ありがとう! グッドトリップ!」
マリを部屋へ促す事に成功。居間には再び俺とサキュバス。そうだ。これでいいのだ。子供が夢を見ている時、大人は子供の夢をかなえるために動かなければならない(ムー子のクソは未だ目覚めていないが)。
「よし、行ってくる(チャキ)」
「え? どこか行くんですか?」
「ちょっと銀行にな」
「……なぜ包丁を?」
「野暮な事聞くな! 決まってんだろ! 銀行強盗だよ! 二、三人ぶっ殺せば金出すだろ!」
「ピカ太さん。悪魔の私がこういう事言うのもなんですが、そんな風に得たお金で身体を買って、マリちゃんは喜びますかね」
なんて正論吐くんだこいつ!? 小学校の教師かテメーはよぉ!? しかし確かにマリの事を考えると……うん? いや、そんな事もないわ。
「喜ぶ。あいつはそういう奴だ」
そう、あいつは俺が断れないと知ってこういう話を持ち掛けてくるような狡猾な小学生だ。喜ばないわけがない。それを知ってて安請け合いしちまうあたしってホントバカ。
「そうだとしても包丁一本で強盗は無謀では」
「……」
考えども考えども成功のヴィジョン浮かばざり、ぢっと刃を見る。
うーん。よく研がれてはいるが、心許ない。
「……課長、卍解の仕方とか知らない?」
「死神じゃないのでちょっと分からないですね」
「……外で頭冷やしてくる」
一端冷静になろう。どうかしていた。
「あ、包丁置いていってくださいね。これから作り置き用の煮物作るので」
「……はい」
……とりあえず、カフェにでも行くか。
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