サキュバス、幽霊と暮らす事になりました5

 正体を現したマ・ポッチャは既に戦闘態勢。余程外道照準霊波光線が癪に障ったらしい。すまん。


「さぁ、いよいよはじまります異界無差別級マッチ。本日は私、島ムー子と鳥栖ゴス美さんでお送りいたします」


「よろしくお願いします」


「さて、赤コーナーはアマチュアながら負けなしの伝説的選手マ・ポッチャ。フットワークが大変軽い。調整は万全といったところでしょうか。如何でしょうかゴス美さん」


「生前は酒浸りの生活をしていたと聞いていますが、心はずっとファイターだったようですね。霊体にアルコールの影響を感じさせません」


「ありがとうございます。対して青コーナーは素人ながら数々の寝技、投げ技、関節技を自在に操るリアル超人レスラー。どう立ち回るか非常に注目です」


「テレビで格闘技を観ながら、あんな雑魚俺でも倒せる。と舐めた口を叩く素人さん達の希望の星ですね」



 あいつら実況しながら動画撮ってやがる。クソだな。だいたい何故俺の二つ名がジェロニモなんだ。ラーメンマンにしてくれ。というかゴス美幽霊駄目なんじゃなかったのか。


「さぁ。レフリーが出てきました。本日審判を務めるのは瑠璃マリ。なんとマ・ポッチャの実子だそうです」


「ジャッジに私情が持ち込まれないか心配ですね」


 軽やかに俺とマ・ポッチャの間に入る瑠璃は白黒ストライプのシャツを着ている。どっから調達したんだそんなもの。


「……ペッ!」


「おおっと! 審判いきなりマ・ポッチャに対して唾を吐きかけた! これはどういう事でしょうか!」


「マ・ポッチャ選手は生前、家庭環境を蔑ろにしていたそうですから、当然の反応でしょう」


「なるほど。しかしマ・ポッチャ動揺しています。実の娘にこうした態度を取られるのは慣れていないようです」


「反抗期前に死んだようですからね。ただ、父親であればいずれは経験する事です。生きていても同じような目に遭っていたでしょう」


「確かに。私事ではございますが、私も似たような経験がございます。ある日父親がゴミに見えたので寝ている最中に殺虫剤をかけてやった事がございます。いやぁその後、どうしてこんな事するの……と泣きじゃくっていて大爆笑でした」


「ナチュラルボーンクズだねあんた……」


「若気の至りでございます。さぁ。それよりもいよいよゴングが鳴るようです。両者コーナーで睨み合う。気迫は十分な様子。勝つのは無敗のアマチュア選手か、それとも暴力を極めた素人か。目が離せません」


 カンッ!


「さぁゴングがなりました。両者リングの中央に向かいます。果たしてどのような戦いが見られるのでしょうか。ゴス美さん。如何ですか?」


「当然マ・ポッチャ選手が有利だとは思いますが、ピカ太選手には奇跡の逆転ファイトを期待したいですね」



 こいつら妙に慣れているな……さすが収益化しているVチューバーといったところか。ムカつくがその点は認めてやろう。だが奴ら勘違いをしている。あたかも俺がボクシングルールで戦うかの如く話しているが、ボクサー相手にそんな間抜けをするものか。ピットファイトの流儀を見せてやる。



「さぁここでマ・ポッチャ左ジャブで牽せ……あぁっと! ピカ太のタックル! 素晴らしい重心移動で見事に決まりマウント! 技のキレはともかくこれはセコイ!」


「確かにボクシグの試合とは言っていませんが空気を読んでほしいですね。レフリーはどう判断するでしょうか」


「……」


「レフリーは動きません。反則は取られない! いいのかこれで!」


「ジャッジが出ない以上は仕方ないですね……」


「しかしマ・ポッチャの両腕はフリーだ。ピカ太ここからどう出るか。マ・ポッチャはしっかりと顔面をガードしている。素人の打撃では恐らく抜けないでしょう」



 そんな事は百も承知だ。ムー子の言う通り俺の打撃など防がれるだろうし、ヒットしても余程連続で入れなくては致命傷にはならん。となれば、まずは相手の無力化を優先する。


「ピカ太殴りかかる! だが威力がない! どうしたピカ太! そんなへっぴり腰じゃ虫も殺せないぞ!」


「何か意図があるように見えますね」


「確かにあまりに不自然な打撃。しかしいったいどのような策を用いるというのか……あぁっと!? ピカ太! 一瞬緩んだマ・ポッチャの腕をつかみ腕ひしぎに入った!」


「関節技は彼の十八番ですからね。移行もスムーズ。見事という他ありません。ただ……」



 どうだマ・ポッチャ! 如何に貴様とて腕を捥がれれば戦えまい! 身体を破壊しつくしてやる! そして勝つのは……ん?



 ゴス!



 なんだ……鼻が熱……血の味……これは……殴られている……! 何があった!




「マ・ポッチャ! すり抜けました! 腕を霊体化させて得関節技を無効化! 直後にピカ太の顔面を殴打!」


「相手は幽霊ですからね。関節技など通用しないでしょう」



 クソ! そんなのありかよ! あ、いかん上に乗れた……



「さぁ今度はマ・ポッチャがマウントを取るが……おっとここでブレイク。審判がマ・ポッチャに注意を促しています」


「公平性に欠くジャッジですね、炎上しないといいのですが」


 カンッ!


「そしてここでゴングです。いやぁ長い三分でしたね。しかし、実力的にはやはりマ・ポッチャ選手が一枚上手といったところでしょうか」


「常勝無敗は名ばかりではありませんね、次のラウンドでピカ太選手がどう立ち回るのか見ものです」


「注目の打撃戦に期待です。ここで選手に連絡です。本試合にセコンドはおりません。水など用意してありますので、各自もっていってください」


「はいお兄ちゃん。お水」


「あぁ。ありがとう」


「大丈夫? 勝てそう?」


「……勝つさ」


 確かに相手は強い。しかし、策はある。悪魔共は好き勝手言ってくれているが、いいだろう。次のラウンド、目にも見せてくれるわ。

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