101話:大学生活二年目の始まり

 今日から大学生活二年目がスタートする。サークルや部活の勧誘に張り切って居る人達とすれ違う。私はサークルや部活に入っていない。他学年どころか、同学年とも関わりが薄い。何かやっておけば良かっただろうか。今からでも入ってみようかと悩みながら歩いていると、後ろから「わっ」と誰かに驚かされる。驚いて飛び退いてしまうと「驚きすぎ」と、私を驚かせたその人はくすくす笑う。杏介さんによく似た男性の声。だけど、杏介さんよりは柔らかい。振り返るとそこに居たのは杏介さんの弟の柚樹くんだった。


「うわっ! 御曹司二世! なんでおんねん!」


「あれ、本当だ。柚樹くんだ」


「和希さんだー!」


 和希さんを見つけるなり、柚樹くんは嬉しそうに駆け寄っていく。すると桜ちゃんが和希さんを守るように彼の前に立った。


「うちのカズくんに触るなケダモノ!」


「酷いなぁ。俺、恋人居る人には手出さないって言ってるじゃないですか〜」


 どうやら桜ちゃんと柚樹くんは知り合いらしい。桜ちゃんが柚樹くんに対して警戒心を剥き出しにしている中「以前、蒼明の文化祭に来たことがあってね」と和希さんは平然と語る。と、そこに杏介さんが通りかかる。「おはよう」と彼の声が聞こえた瞬間、和希さんと笑顔で話していた柚樹くんの表情に緊張の色が見えた。


「……柚樹」


「は、はい」


 杏介さんは柚樹くんと目も合わさずに「おはよう。それと、入学おめでとう」とだけ言うと、逃げるように去っていった。柚樹くんは拍子抜けしたような顔をした後、ほっとしたように笑って「ありがとうございます。兄様」と杏介さんの背中に向かって呟いた。


「……やっぱツンデレやん」


「杏介可愛い〜」


「……やっぱあの人嫌いやわ」


「ふふ。桜の方が可愛いよ」


「ふんっ」


「和希さん和希さん。俺と桜さんどっちが可愛い?」


「うちに決まっとるやろボケ! 何張り合おうとしとんねん! 散れ散れ!」


「うわーん。桜さんがいじめるよぉ〜」


 柚樹くんはそうおどけながら、和希さんに抱きつく。


「だー! もう! 接触禁止言うとるやろ!」


「柚樹くん。離れて。桜が妬いちゃうから」


「はーい」


 素直に和希さんから離れる柚樹くん。


「兄弟揃ってカズくんに色目を使いおって……」


「俺は桜にしか興味無いから大丈夫だよ」


 杏介さんが聞いたら「誤解を招く会話はやめろ」と呆れた顔をしそうだなと苦笑いする。


 それにしても、柚樹くんを改めて見ると、杏介さんと顔や声はよく似ているが、性格は全然違う。柚樹くんは遊び人として有名だったが、杏介さんが遊んでいる話はほとんど聞いたことが無い。女性から告白されているところはよく見かけるが、全て断っている。麗人さんあるいは和希さんと付き合っているという噂なら何度か耳にしたことがあるが、本人は否定しているし、和希さんには桜ちゃんが居て、麗人さんには片想いの女性が居る。そもそも杏介さんは恋愛に興味が無さそうだ。まぁ、恋愛に興味が無いのは柚樹くんもだけど。

 なんにせよ、杏介さんとの仲はそれほどギスギスしていないようで良かった。これからまた賑やかな毎日になりそうだ。

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