45話:一周年
5月の終わりが近づいてきた。今日で、咲ちゃんと付き合って一年になる。
「もう一年経つんだね」
「早いですね」
「早いね」
彼女の要望で、フルーツケーキを作ることになった。
スポンジの焼き上がりを待つ間に、彼女にはクリームを作ってもらい、私はフルーツを切る。こうしていると、ふと、バレンタインデーに小桜さん達と一緒にガトーショコラを作ったことを思い出す。お菓子を作ることはたまにあるけれど、誰かと作るのはあの日以来だ。来年も誘ってくれるだろうかと気が早いことを考えていると、電子レンジが私を呼んだ。スポンジが焼き上がったようだ。
電子レンジから取り出しケーキクーラーの上に置いて冷ます。
冷めたところで回転台に移して、回しながら生クリームを塗っていく。
「わざわざ買ったの?これ」
「ううん。実家からもらったんだ。使わないから持って行って良いよって」
側面に生クリームを塗り終えた後は、生クリームを絞り、キウイや桃などのフルーツを乗せて完成だ。
「おお。売ってそう」
「いくらで買う?」
「うーん。千円?」
「特別にタダで食べさせてあげよう」
「えー!タダですか!?……なんか裏が無い?身体で払えとか言わないよね?」
「言わないよ。もうっ」
「ふふ。ごめん。冗談」
「ご飯の後に食べようね」
「うん」
ケーキは一旦冷蔵庫に入れ、今度は夕食の準備を始める。今日は日曜日。明日は互いに学校があるため、夕食を食べたら解散予定となっている。少し寂しい。
「……一周年なのにえっちできないの残念だなぁ」
ぼそっと呟いた彼女の足を軽く蹴る。
「イテっ」
「君ってやつは……」
「……ごめん。私、エロ魔人なので」
「封印してやる」
「封印されるなら未来さんの側が良いです」
「魔人さんは本当に私のこと好きだなぁ」
「私がエロ魔人になっちゃうのはあなたのせいですよ。天使のフリしたサキュバスさん」
「サキュバスってなんだっけ」
「人間を誘惑するえっちな悪魔」
「それは咲ちゃんじゃないか」
「えーん。酷ーい」
嘘泣きをし始める咲ちゃん。一応形だけ謝っておく。
「責任とって抱かせてください」
「きょ、今日は駄目!!絶対駄目!明日学校なんだから、終電逃したら困るでしょ!」
「サボります」
「ちゃんと学校行きなさい!」
「じゃあキスだけでも」
「うー……ご飯食べたらね……」
「食べた分のカロリー消費させてくださいね」
「駄目です。一回だけ」
「一回って何時間?」
「もー!集中出来なくなるからやめて!」
「はぁい。ほどほどにしておきます」
私を揶揄って、けらけらと彼女は笑う。全く。彼女は意地悪だ。だけど、私が本気で嫌がるような意地悪はしない。愛故の揶揄いであることはちゃんと伝わる。だから私はどれだけ意地悪されたって許してしまう。
彼女と付き合って、もう一年。女同士の恋愛なんて想像したこともなかった。いつか、男の人と付き合って、結婚して妻になって、子供を産んで母親になる。運命の人は男性だと、信じて疑わなかった。咲ちゃんが同性愛者であることも想像したことなかった。私に寄せる好意が恋愛感情だったなんて、あの日再会しなかったらきっと、気付かないままだっただろう。
彼女と出会わなかったら、私は男性と恋愛をしていたのだろうか。今は逆に、その想像が出来なくなってしまった。将来を考えた時、当たり前のように隣に彼女がいるから。
昔憧れたおとぎ話のお姫様の隣には、素敵な王子様がいた。その王子様は男性だったけれど、私にとっての王子様は、咲ちゃんだ。
私の隣にはもう、顔も名前も知らない王子様の入る隙は無い。
「……咲ちゃん」
「ん?」
「これからも、よろしくね」
「……うん。よろしくね。未来さん」
私達の旅路は、まだ始まって一年。きっとこれからも続くのだと、私は信じて疑わない。
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