第496話 失敗なんて誰にでもあるが

 まあそんな他国の事より、今はクロノスの事だな。


「要するに、話術に長け、それを補強する知識もあったって事か」


「そうだな。本当に、一緒にいて楽しい男だった。多くの召喚者が彼を慕っていたよ。だが、それでも同時につのっていった思いもある」


「恨みか?」


「そこまでは言わない。ただ虚しさと焦燥感といえばいいか。迷宮ダンジョンを探索し、ラーセットを復興し、発展させながら奴の本体を探す。ただその作業は、決して辛いだけでは無かった。感謝はされるし、日々復興と発展で俺たちは満たされていた。だが、それと並行して不定期に仕掛けてくる南北の大国にも対処しなければならない。特に……やはり人と戦うのは楽しいものではない」


「それは分かるよ」


「力の差は言うまでもなく歴然だ。だが手を抜けば、彼らだって召喚者を倒すことが出来る。やる事は、神経をすり減らしながらの殲滅戦。一方的な殺戮に心がすくめば、次の瞬間には仲間が殺されている。そうして心に深い傷を負ったまま、再び迷宮ダンジョンへ行く。そうしている内に、多くの仲間がいなくなっていった」


 キツイ……。

 俺も同じことをしただけに、その辛さは分かる。

 だから俺は人と戦う事は召喚者にはさせなかった。その為にも南と同盟を組んだのだ。

 その後ろ盾によって、北との本格的な争いは避けられた。

 目の前のみやが裏切ってリカーン軍と戦ったくらいだな。

 そう考えると色々と複雑だ。


 だけどダークネスさんはそうはいかなかった。

 理由は何かあったのだろうが、とにかく召喚者を人間と戦わせたのか。

 そりゃ南北共に敵対関係になるな。何せ場合によってはいきなり首都で派手な破壊活動が出来るのが召喚者という存在だ。

 しかも北はどうも宗教的な問題もあった様だしな。


 だが破壊活動それは向こうもやって来る。咲江さきえちゃんや龍平りゅうへいが外回りをよくやっていた時は迷宮ダンジョンの穴の管理だと思っていたしそう聞いていた。

 俺がクロノスになってからは、こんなに何度も必要あるか? と感じて外回りはあまりやらなかったが、実際にはそういった理由か。

 いきなり戦いを仕掛ける事はなくとも、連中の砦を見つければ見つければ報告するはずだしな。

 それにそしてもだ……、


「実際に皆はどんな時期に召喚されたんだ? クロノスが召喚された時期も知りたい」


「クロノスが召喚されたのは大月歴の133年だな」


 やはり俺と同じか。

 というか、その時に奴がラーセットを襲う事が確定している以上、ここは変化なしだ。

 あったら逆に驚く。


「それと私が召喚されたのは、最古の4人と呼ばれる中では最も遅い。最初に黒瀬川真理くろせがわまりが召喚され、数年後には緑川陽みどりかわよう、次いで風見絵里奈かざみえりなが召喚された。その7年後が私となる」


「そこまでにどの位の時間が経過したんだ? それぞれの年号も知りたい」


「知りたいなら答えるが、黒瀬川くろせがわが141年、緑川みどりかわが147年、風見かざみが149年、そして私が156年だ」


 みやが最後なのは意外だった。156年……俺がクロノスだった頃は、17期生と18期生の召喚の間くらいか。

 あの時期にはもう召喚者のシステムはほぼ確立していて、滅多に死者は出なかった。

 というか、ケーシュが43歳、ロフレが45歳の頃と考えると、結構のんびり……じゃないな。


「そこまでに何人位が命を落としたんだ?」


 黒瀬川くろせがわが召喚された時には、もう122人が死んでいた。

 私が召喚された頃には、その数は377人になっていた」


 眩暈がする数だが、奴と戦い続けたのなら理解できる。それに人間ともか。

 俺の時には、その頃にはもう龍平りゅうへいがいたし、145年に奴の本体と遭遇し倒すまで、探索すらしていなかったからな。

 別にサボっていたわけでは無い。ただ、召喚者に探索させていなかっただけだ。

 人海戦術で探そうと思えばできたろうが、甚大な被害が予測できたし。

 そしてそれは、第14期生と磯野いそのの事件で確実なものとなった。

 だが先代はやらせたんだな。


「必要だろうから今のうちに言っておく。その時点で児玉里莉こだまさとりは死んでいた」


「そうか……」


 ただそうとしか言えなかった。

 予想より早いというべきか、遅いというべきか……。

 あえて言うなら早い。

 これから起こったであろう事を考えると、もっと遅いと思っていたのだから。


「こうしてクロノスへの尊敬と共に蓄積された憤りは、緑川みどりかわの失敗で火が付いた」


「あいつが?」


 いや、そんな事を言っていたな。


「あと一歩まで追い詰め、クロノスが奴の体の一部を分解した。外したというのだったな。それが、奴に一矢を報いた初めての戦いとなった。いや、違うな。アレが最初で最後のチャンスだった」


「どういう戦いだったんだ」


「43人の召喚者で奴とその寄生体どもを攻撃した。しかし、奴の元へと辿り着けたのは6人だけ。そんな中、クロノスが攻撃を成功させ、緑川みどりかわがその傷口を石化させた。いや、させようとはしたんだ。だが力が足りなかった。中途半端に塞がった傷を修復するつもりだったのだろう。奴は他の寄生体を傷口に取り込んだ」


 俺の時は周りを全部倒してから追いつめたが……そうか、乱戦の最中の出来ごとか。


「その現象をクロノスは知っていたのか?」


「いや、聞いた事は無かったそうだ。奴の本体自体も何度か見ていたが、届いたのはその戦いが初めてだったのだ」


「続けてくれ」


 少しだけ続きを話す事を躊躇ちゅうちょしたようだったが、おそらく少し整理していただけだろう。

 ここまで来て話さない事はあるまい。俺も焦っているな。自分でも分かる。


「そこで奴は周りの寄生体を取り込む事で手が付けられないほど強化された。クロノスも何度も挑戦したが、どれほど破壊しても再生の方が早い。もうどうにもならなかった。そしてクロノスが撤退を決め、生きて戻ったのは他には緑川みどりかわ向峯さきみね久我くが、それに私の4人だけだた」


 2人は聞いたことが無い名だが、聞くまでもあるまい。

 最終的に、この世界は4年前にダークネスさんを含めても13人まで減っているんだ。

 それにしても、風見かざみ黒瀬川くろせがわは参加していなかったのか。

 他で用事があったのか、決着までに合流できなかったのか……まあ考えても仕方がないか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る