第495話 大変だって事は理解できるさ
クロノス――つまりは生前のダークネスさんが残した計画書。
まあ死んではいないが、この際それは置いておこう。
重大な事は――、
「今の計画はクロノスが立てたものでは無いな」
「私がすべき事は、クロノスが立てた計画を確実に遂行する。ただそれだけだ。その為に必要な事は全て自分で判断する。未来など、何処にも記されてはいないのだから」
そう言われてしまうと何も言い返せない。
クロノスも、未来に何がどうなるからこうしろなんて指示は出せないからな。託した相手の裁量に任せるのは当然の成り行きだ。その点は納得する。
但し――、
「その計画は俺が引き継ぐ。今までクロノスをやって来たんだ。今回だって出来るさ。でもその前に、さっきの話の答えを聞こうか」
「クロノスの死か……良いだろう。お前の予想もあながち間違ってはいない」
そう言うと、
クロノスの最後と、その経緯を。
この時代のクロノス――ダークネスさんは、過去のクロノスたちと同じように行動した。
最初に始めた事は、やはり召喚だ。
それにやっぱり北のマージサウルとは険悪な関係になっている。
だけどこの辺は変わりようが無い部分だな。歴史と宗教が絡んでいるし。
そして召喚に関しては――、
ここはゲームのような世界。
死んだら記憶を失って日本へと帰る。
良いアイテムを入手した者は、日本へ戻ってもスキルに関連した力の一部が残る。
世の中にいる多くの成功者の中には、そういった力を持ったものが数多く存在する。
……まあ、俺が受けた説明と同じだな。
「それで、召喚された日に関してはどうしたんだ? 全員が同じ日から召喚されたとなれば、それ以前の成功者が嘘っぱちだなんてすぐに分かる事だろう」
「塔の機能は、最初からあったよ」
結局はそうなってしまうよな。当たり前だ。
そうしなければいけなかったのか。
今更だが、ダークネスさんも深い業を背負って生きて来たんだな。
「ただ、彼はそれ以外にも重大な事を話した。もう言うまでもないだろう。地球を襲った奴の事だ」
「最初からか?」
「ああ、そうだ。そこで生き残るためにも……そして地球に戻った時に大切な人を守れるように、力を付けて帰って欲しいと言っていたな」
「召喚された日が同じなのはどう誤魔化したんだよ」
「本格的な召喚の前に、それなりの数が召喚された。最初の10年くらいの間にな。彼らには当初から全ての真実が告げられ、協力するかどうかを求められたそうだ」
「断ったらどうしたんだ?」
「処分だ――他にあるまい。
一番の古株か。だけど女性に歳を聞くのは野暮と言うものだ。
それより彼女の所へ行った場合、
「その辺りの生き残りは、全員召喚された日を少し昔と言う事で口裏を合わせた。何らかの理由によって途中で気が付いた者には、『塔が不調なのかもしれない』『ブラックボックスだから直せない』『自分たちは別の日だから、いつかまた直るだろう』という感じに話を付けていたそうだ」
「なるほどね。しかしいつまでも誤魔化せるものでもないだろう」
「その点は案外大丈夫だったようだ。先ほども言ったが、クロノスは早い段階で地球の事も話していた。未来で起きる事もな。そちらの内容の方が重要だった。社会情勢、ゴシップ、連載中の漫画、映画や何かの続編……私も聞いたが、どれも十分に納得できる内容だった。とても一人の妄想でどうにかなるレベルではないほどに。何より問題になる程に長く生きた者は、もう世界の仕組みに気が付いていた。そして他にどうしようもなかったのだとも。それでもダメな奴は……まあさっき言った通りだ」
「なるほどね。だが地球の話をよく信じたものだな。俺の時も一応は信じてはくれた感じだったが、やはりどこか半信半疑だったぞ」
「クロノスは博識だったからな。より正しく言うのなら、雑学王だ。それに話術の巧みさは感嘆の域であった」
雑学王? 俺が?
自分でも想像がつかないんだが。
「クロノスは医者だったそうだ。お前はどうなんだ? 高校生とか言うなよ」
「俺も医者だ」
「やはり同じ道を辿るのだな。その為に身に付いた知識だと言っていたよ」
ああ、そうか。ある意味当然か。
ダークネスさんには
俺は龍平からの資金供与とコネの恩恵を受けまくり、医療というか、研究の道に
ラーセットで奴らの構造を外せたのも本体と戦えたのも、その時の知識があったればこそだと思う。
だけど歴代の俺はそうじゃない。
誰もが
あの貧乏な家で。
中には挫折した俺も――いや、いないな。全員が医者になったはずだ。
だけどその道は、決して平穏ではない。無謀すぎる剣の山とも言える。
金も知識も必要なのは当たり前。だけどその
それは情報やコミュニティ。より有力な派閥に取り入らなければどうしようもない。
だけどそんな所を探すのも、入るのも、そこでやっていくのも大変だ。
何より有益な情報はタダではない。
だが俺には金もない。社会的な地位も、後ろ盾も無い。
なら用意できるものは一つ。情報だ。
なんでもいい。専門知識はもちろん、それぞれの趣味――それこそ車でも釣りでもキャンプでもゴルフでも、或いはアニメや漫画、ゲーム、更にはニッチな趣味まで網羅し、近くにいて楽しい、有益だ、居て欲しい、便利。そういった人間にならなければならない。
間違いなく、俺より遥かに苦労し、更にはそちらに貴重な時間を取られてしまっただろう。
それが奴を倒す為には力不足になってしまったとしても、その経験はこちらでクロノスとして生きたって所か。
だけど外交は今一つだな。
途中からではなく、最初から南とも上手くいっていなかった。
北と戦争になった時に南への援助を何度も申し入れたが、すべて断られている。
戦いに勝利した後も、和平交渉などは行われていない。というかこちらも全部拒否され、以後今日に至るまでずっと膠着状態だ。
それでもイェルクリオの首都であるハスマタンには支援を出した。
まあこちらはこちらで目的があったとはいえ、まさか向こうも世界を滅ぼす3体の内の1体を倒す事が、ラーセットなどという小国の悲願とは思うまい。
しかも実際には個人の復讐心から始まっているしな。
あの後は……少しは仲良くなれたのだろうか。
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