第334話 どうしてここに龍平が
塔と設置された時計が光り、針が不規則に回る。
本来なら、もう光は消え、代わりに15人の召喚者が寝ている頃だ。
なのに収まらない。しかもガタガタと揺れる勢いで時計が設置された塔にヒビが入る。
これはマズい! 何か失敗したか!?
シェマンはもう呪文のような言葉は唱えていない。ただ顔面蒼白になって呆然と立ち尽くすのみだ。
仕方がない、最悪でも塔は壊れてもいい。だけど時計だけは失う訳にはいかない。
急いで時計を掴む。とにかく塔から外せば、儀式は中断されるはずだ。
だが時計は全てを拒絶するように、掴んた俺の右手を爆発でもさせたかのように弾き飛ばした。
あぶねえ!
痛みも欠損も外すが、これはピンチだ。
だがそんな俺の焦燥をあざ笑うかのように、時計の動きも光も収まってきた。
一体何だったんだ!?
そんな俺の目の前に、一人の人間が召喚された。予定の15人じゃない。ただの一人。
丸々としたデ……ふくよかな体。顔には目だけを隠す、タキシードが似合いそうな怪しいマスク。上半身は裸にマント。下半身は真紅のブーメランパンツに黒い靴下。
そして両肩から脇にかけて走る痛々しい傷跡。
――龍平!?
それも高校生の龍平じゃない。
戻ってからずっと世話になり、地球が滅ぶ時にはもう連絡も取れなくなっていた、あの龍平だ。
俺と同じ、29歳に成長した龍平がそこに眠っていた。
※ □ ※
俺もちょっとパニックだが、召喚の間は大パニックだ。
「大丈夫か、シェマン」
「あ、あの……ク、クロノス様。私、何かとんでもない失敗を」
まあの状態でしかも一人だけ。動揺するのも分かるが、
「先ずは落ち着け。とにかく一人とはいえ召喚は出来ているんだ。時計は俺の方で確認しておくから、シェマンはいつも通り召喚者の方を頼む。目覚める予兆が見えたらいつものように教えてくれ。それと塔の修理もな」
「は、はい。分かりました。では皆さん、落ち着いて。この方を目覚めの部屋へ。それと塔の修復の手筈を――」
とにかく今は、時計の確認だ。壊れていたら洒落にならない。
ん? 時計?
ふと見るが、龍平は時計を持っていない。俺は持っていたのにな。
と思ったが、そういえばこいつの時計は先輩の墓に安置されていたか。
まあいいや、とにかく
いずれは教官組の皆には話さなきゃいけないが、その前に二人っきりで話したい。
特にこっちでの記憶があると――つか100パーセントあるだろ。色々とマズいんだよ。
今ここで再戦なんてことになったら洒落にならん。
さすがに地球の事を知っているからいきなりはそうならないと信じたいけどな。
□ ※ □
そして2日後、目覚めの兆しが出たというので急いで向かった。
いつもの中途半端な幽霊姿と違い、認識疎外は完全だ。いつも以上に気合を入れて行くしかない。
早く話したい事や聞きたい事は山ほどあるが、何処まで冷静なのかを確認しないとそれどころじゃない。
だがそんな心配は、完全に消し飛んでしまった。
「ここは……何処だ? 俺は誰だ?」
「ここはラーセットです。まだ目覚めたばかりで記憶が混濁しているのかもしれません。少し落ち着きましょう」
「分からない……何が起きているんだ?」
「落ち着いてゆっくり思い出しましょう。何か頭にある単語とかを言葉にしてみると良いかもしれません」
「……分からない――いや、へい……平……名前か何か、とても大切な……」
ここでの事も。日本での事も。
俺も最初の内はそうだった。こちらは召喚されていきなり叩き起こされたからな。それで記憶を思い出すまでに
だけど他の召喚者は違う。自力で目覚めるまで待てば、きちんと思い出す。これはずっと見てきたのだから間違いない。
なのに、
まあ考えても仕方がない。いずれ記憶は戻るだろう。
取り敢えずシェマンが気を利かせてスキルの説明や制御アイテムの取り出しなんかもやってくれている。
今は取り合えず、みんなに任せておこう。いきなり暴れ出しそうな気配もないし。
当面の間は『召喚に何らかのアクシデントがあって一人だけで召喚されてしまった。しかも記憶喪失だから面倒を見てくれと』伝えておいた。
アイツは直情的だが馬鹿ではない。記憶が戻ったら、まず最初に余計な事をする前に
まあそれまでは待つしかないか。
そんな事をのんびりと考えながらも、実際には時計の確認や次の召喚のための会合などでてんやわんや。
何せ不測の事態の上に予定が変わってしまったからな。
次も15人で行くのか、ここは少数で様子を見るのかなんかも決めないといけない。
そんな事務作業に追われて早1か月。
遂に
しばらく様子を見てもらったが、相変わらず記憶の方は戻らずだ。
ここはいっその事、
それにスキルも信じられないほど強くて、遊ばせておくにはもったいないそうだ。
俺としても、
教官組には知り合いだという事は教えておくべきかとも思ったが、やはり先ず二人で話し合いたい。
そんな訳で、今回は認識疎外もゆるくして幽霊姿。
出発を見送りに行ったのだが、皆に
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