第328話 彼らはどんな結論を出すのか
「話を続けさせてもらうよ。俺はラーセットでの記憶の全てを無くし、親しい人たちの死という現実に打ちひしがれた。そしてその謎を解明したくて医者になったんだ」
「頭が良かったんですね」
「ただ必死にやっただけだよ。その後は何年も研究を続けた。けれど、原因は全く分からなかったよ。世界中のサンプルを取り寄せたが結果は同じ。情けない話だが、原因がこっちの世界に在ったんじゃわかるはずも無いよな」
「ちょっと待ってください。世界中ってのはどういうことですか? 今のところ、日本人だけですよね?」
「その事なんだが、全員自分が召喚された日を覚えているか?」
「 2032年の5月28日ですな。29日に友人と約束があったのでよく覚えています」
「俺も同じだ。そして29日に目覚め、ニュースを見たら世界同時大量死のニュースが飛び込んできた。日本だけで1千万人以上。世界中を合わせれば1億人を超えていた」
「そんなに召喚したんですか?」
「無理とは言わないが、可能性は極端に低い。今のペースで考えても、1千万人召喚する
には数十万年掛かるだろう。ましてや1億人も召喚するなんてとても無理だ」
「でもこちらの時間は動いていても、向こうの時間は止まっているのですよね? とても長い時間をかければ不可能ではないのかと思いますです」
「確かに気の遠くなるように長い歳月だな。さすがにそこまで行くと、文明が何処まで進歩しているか想像もつかない。その時点で召喚者にどのくらいの価値があるのかは少し疑問だな。いやまあ、大切なのはそこじゃないんだ」
「というと?」
思い出すのも辛い事だが、ここは避けては通れない。
大丈夫。
「俺が帰還してから10数年程が経った時、
「……それじゃあ」
「世界が滅ぶまでほんの数か月だったな。倒しても倒しても増える方が早くて、もうどうしようもなかった。1月と経たずして社会基盤は壊滅し、後はもうズルズルと滅びの道をたどったよ。最期の頃はもう、ラジオすら流れてはいなかったな。後はもう人類は終わったなと思いながらも研究を続けていたけど、なぜか再びこの世界に召喚された。しかも過去の
「改めて確認しますです。この世界で死んだら、本当に死ぬですね?」
「そうだ」
「でも帰る手段はあるですね?」
「そうだ」
「そうやってたとえ帰っても、結局人類は滅びるですね?」
「そうだ」
そして一方で、始めて聞いた二人は混乱中という感じだな。まあ情報を整理するまで待ちか。
俺は二人が話し始めるまで、久しぶりにひたちさん特性のコーヒーっぽいものを淹れて3人の前に置いた。
「つまりは詰んでるって事じゃないですか!」
その体格に似合わない震えた声で
「そんな訳で
「今更ですが、それを皆に話す事は出来ないですか? その上で賛同してくれた人だけ残って貰えば良いと思いますです」
「俺もそうしたいんだけどな。だけど知っているだろ、召喚するのに生贄が必要な事は。召喚する為にはこの世界の命が大勢失われるわけだ。しかも彼らには話していないし知られてもまずいが、この召喚はラーセットの為だけじゃない。どちらかといえば
「あまりいないでしょうね。多分俺も
「でも、それだと地球で死ぬですよ。それに犠牲を出しながら召喚しているラーセットの人も良い気分ではないですね」
「どうせ死ぬなら故郷で死ぬさ。どうせここで何かしたって帰ったら忘れるんだろ? ならやる気のある奴に任せる。俺たちのために頑張って死ねばいい。そう思ったと思いますわ」
「今は違うのか?」
「俺を先輩として慕ってくれる奴らがいます。あいつらがこの世界にいる限り、俺は帰れません」
「そうか……」
しがらみがあるから帰れない。
だけど召喚された直後なら協力はしない。
まあ普通はそうだよな。
でもそこで終わらせられるほど、簡単な作業でもなければ時間も無いんだ。
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