第319話 出かける前にあいさつを済ませておこう

 こうしてスキルの制御アイテムは受け取ったわけだが――、


「なあ、これもうちょっと頑丈にならないか? 何と言うか、本気でスキルを使うと結構簡単に壊れちゃうんだよな」


「申し上げにくいのですが、今までそれを壊した人はいませんよ」


 またもやジト目。俺が何か悪い事をしたか?

 ただ心当たりもある。先代のクロノスが施した超スパルタ教育によって、俺のスキルは相当に強い。

 何せ送り帰すだけとはいえ、何の儀式もアイテムも無く普通にスキルだけで可能になったほどだ。

 今まで出来た俺は間違いなくいない。先代も鼻が高い事だろう。おかげでこちらは何度も消滅の危機を迎えたわけだがな。


「それで強化は?」


「無理です。よりはっきり言うと、私たちもそれが何なのかよくわかっていないんですよ」


 オーパーツって事か。まあ召喚自体、どんな原理で成り立っているかを理解している人間はいない。

 ただ試行錯誤の結果、こうやったら出来ましたって程度だ。こちらも時間があったら、一度じっくりと調べたいものだ。

 あとスキルなんかの説明が、言葉とは言えないような感覚的なものだ。この点が俺の知っている頃とは違う。

 多分だが、誰かが日本語に翻訳出来るようにしたのだろう。ここまでに死んだり帰ったやつや、これから処罰しなければいけない中のいなければいいのだが。


「それでクロノス様は、これからどうなさるのですか?」


「こうして制御アイテムも再入手したからな。まだ残っている裏切った連中にけじめをつけてくる。これは俺の責任だからな」


 同郷の人間。本人の意思を無視した召喚。真実を明かせないジレンマと、話せばかえって収拾がつかなくなる予想。

 色々と複雑だが、結局のところは単純だ。全ての責任は俺が負う。そう決めたんだ。

 この世界と地球を救って英雄になろうなんてつもりはない。

 全てが終わったら、地獄でも何処へでも行ってやるさ。

 あくまで、全部終わってからの話だけどな。それと――、


「ついでにリカーンって国を滅ぼしてこようと思う。召喚者といっても、あっさりと騙されて同士討ちを始める程度の人間だと世界中にバレてしまったからな。それなりにきつい対処をしなければ、今後は常に内部に裏切り者を抱える事になる。物資の横流しなんかもしていたしな」


 シェマンは複雑な表情を見せていたが、


「それでしたら、先ずは軍務庁に確認を取ってからの方が良いと思います。そういった案件はあちらの管轄ですので」


 そんなお役所仕事が――と一瞬思ったが、確かに国家同士の問題を俺のスタンドプレーで対処して良いのかと言うとそれも違う気はする。

 召喚者の件は俺がやるにしても、国に関しては話を通しておいた方が良いだろう。

 万が一、これが引き金になって国家同士の戦争になった場合なんかも考えなきゃいけないからな。

 それに――、


「今の軍務庁の長官はエデナット・アイ・カイだろ? 就任のあいさつをまだしていなかったからな、ついでに寄っていくよ」


「その様子だと聞いていたわけでは無いんですか? いやあってはいますけど」


「まあ順当に副長官が昇格しただろうって思っただけだよ。それじゃあ」


「はい。くれぐれも無茶はしないでくださいね。また壊れてしまったら、いつでも来てください。そうでなくても、もっとちょくちょく顔を出してくださいね」


「これからはそうするよ」


 再び認識を外したが、今回の事はちょっと反省しないとな。

 執務室ではさすがにスキルは使っていないが、こうして移動中や対話中はずっと使いっぱなしだ。

 俺の感覚がマヒしているだけで、本当はダメだったんだよな。俺と会った時の先代クロノスがこうしていたから真似ていたが、これからはもうちょっと考えよう。

 まあ、後での話だが。





 そんな訳でやってきました軍務庁。

 あんな事を考えていましたが、ここまでの距離は外しました。

 スキルの使用はちょっと控える予定だったけど、認識を外しっぱなしで歩くよりこっちの方は負担が無いんだよ。


 そんな訳で、中途半端に認識を外した幽霊姿で受付へ。

 新人だったが、さすがにこの姿は毎度の事だ。ちょっと怖がりつつも、話を通してくれた。

 というか門前払いされたらさすがに怒るわ。時間ないんだし。


 こうして軍務庁長官室に案内された俺は、この世界で3人目となるラーセットの軍務長官と対面することになった。

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