第313話 予想以上に強い

 スキル関係のアナウンス、この頃は感覚的なものだったのか。

 あれを言語にして、分かりやすく説明する手段が欲しいな……そんな事を考えながら、俺は宮神明みやしんめいの首を容赦なく圧し折っていた。同時に何かがチクリと胸を刺す。

 外してあるんだから、イチイチ湧いて来るなよ罪悪感。これからまだまだ沢山控えているんだぞ。


 ポイと、みやの遺体を捨てる。

 高潔かつ実直。だがそれを他人に強要した事は一度も無かった。

 周囲に流されず、他者を尊重し、それでも信念を貫ける奴だった。

 真面目過ぎて面白くないし堅苦しいとは皆の意見だったが、俺はお前の事が好きだったよ。そういう不自由な生き方を選ぶ奴は、嫌いじゃなかったんだ。


「お前の成長が見られなくて、本当に残念だ」


「貴様が言って良いセリフか!」


 叫びながら中条仁なかじょうひとしが飛び込んでくる。確かに危険だが、触れなければ――と思った俺の背後から、荒木幸次郎あらきこうじろうが掴む。

 しまったな。目を離したつもりはなかったが、やはり実力者は最初からそれなりに強いって所か。

 だけどな、荒木あらき――、


 掴んだ両腕の手首を逆に掴み、粉砕する。

 声にもならない悲鳴を上げて離れると同時に、中条なかじょうの足元の地面を外す。

 突然湧いて出た落とし穴に驚愕するが、もう手遅れだ。こいつは空中制御なんて器用な真似は出来ないからな。

 だがその瞬間、中条なかじょう目がけて槍が横向きに迫ってきていた。

 なるほど、これなら押せるな。さすがは児玉こだま、実戦慣れしている。

 だけど見られたら終わりだよ。


 中条なかじょうまでの僅かな距離を外し、槍を掴む。

 同時に押してもらえなかった中条なかじょうは、空中で姿勢を変える事も出来ずに落とし穴に腰まで嵌っていた。


「残念だったな」


 そのまま背後から心臓を槍で貫くと、中条なかじょうはそのまま動かなくなった。


「本当に、俺に勝てると思ったのか?」


「うーん、ここまでやるとは思っていなかったかな」


 児玉里莉こだまさとりは少し驚いた様子だが、同時にどこか納得している感じがする。

 やはり心の中では分かっていたんだろうか。


「やっぱり召喚者としても先輩だしね。それに経歴も聞いてる。なにより人を殺す事に躊躇が無いんだね。こりゃ勝てないよ」


「お前も全く容赦なかったがな」


「それでこれだとね、ちょっと凹む」


 そう言いながらも、周囲に散った迷宮産の武器の数々がふわりと浮かぶ。

 参ったね、これは切りがない。

 まあ武器自体はすべて把握できているだけ、以前戦ったフランソワって教官よりはマシか。

 あれは物品召喚アイテムテレポートで飛ばしてくるだけに、まるで予想がつかなかった。

 とはいえ上下に右左、間断なく襲ってくるこれは想像以上にマズい。全てを避けきるのは無理か!?

 なんて考えた時には、左手に曲剣シミターが突き刺さる。痛みは外しているが精神的に痛え。

 しかも抜こうとした途端、バランスを崩して地面に倒れ込む。左足が長剣で切断されていたんだ。

 その倒れた背中に、情け容赦なく雨あられと剣が突き刺さる。

 ああ、これは普通だったら死んでいるな。けれど当然ながら、あれは外した偽の体だ。


 本物は距離を外して児玉こだまの元まで移動していた。

 ほんの瞬く間に、彼女と目が合った。何処か寂しく、覚悟を決め、申し訳ないって目をしている。

 これが惚れた弱みってやつかよ! くそう!


「残念」


 彼女に触れるか触れないかというその刹那、地面から無数の手槍ジャベリンが飛び出してくる。

 マジかよ!? 事前に埋めてあったのか! しかもこの位置に。

 被弾して体を変える手もあるが、もうここまでに使ったスキルが予想以上だ。

 無理せず後ろに距離を取った俺を、再び荒木あらきが背後から掴む。


 ふう……またかよ。

 さっきの傷は薬で治してあるが、実力差はもう今更だ。また同じことをすれば――、

 そんな甘く見ていた俺を戒めるように、目の前にさっき見た槍が超高速で迫ってきていた。

 しかも中条仁なかじょうひとしを付けたまま。


 完全に油断した。児玉こだまにとっては誰が刺さっていようが武器は武器か。

 距離を――と思うが動けない。まずった。俺は誰かと一緒に距離を飛ぶことは出来ないんだよ。

 そして無情にも槍は突き刺さる。荒木あらきも同時に貫いて。


 ……ってオイ、幾らなんでも容赦なさ過ぎるんじゃないのか?

 なんて思った俺の前には、不気味な笑顔が広がっていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る