第251話 俺はこれから何人の同胞を死に追いやるのだろう

 俺の人生経験から、地球の危機は話すべきだと思う。

 だがどう話す?

 俺と龍平りゅうへい以外に生きて帰った人間はいないであろう事まで話すのか?

 もしかしたらいたかもしれないが、確認できたわけじゃない。こちらの世界で知り合った人の記憶なんて無かったし。


 ああ、ダメだ。やはり相当嘘を混ぜないと説明できない。

 そして嘘なんてものは、結局はばれる。たとえ真実だと言い張っても、不信感は消せないだろう。

 これを話すには、帰るためのシステムが必須だ。

 でも、それは偽でも良い。

 あの光って消えるシステム。あれを作る必要があるな。

 だけどそれは俺には無理だ。誰かのスキルか何かのアイテムかは分からないが、それが無ければ始まらない。


 そして召喚された俺には全てを話す。

 少なくとも、俺とクロノス……いやなんか面倒くさいな。とにかくその二人が揃えば帰れる事は出来たんだ。

 互いに協力すれば、帰還する手段は――いや、違う。

 龍平りゅうへいは俺が帰した。一人でだ。

 代々の龍平りゅうへいはどうなった?

 可能性の高さからすれば帰ったんだろうが、必須という訳でもない。案外様々な形で死んでしまったかもしれない。

 これはわからないから保留だな。


 だがここまでの考えは、実は全部ポイだ。

 さて、肝心な口伝の内容を考えよう。

 あれは代々、俺が繰り返してやってきた失敗の連鎖だ。

 そして俺が最もするべきだと思っているのが、全てを話して全員で協力する事だ。

 だが口伝はこうなっている。


「まず最初に全てを伝えて協力を仰ぐ――失敗。全ては伝えないが、協力して研究する――失敗。先ず鍛え、十分に強くなってから協力を仰ぐ――失敗。召喚者全員に協力を仰ぎ一丸となって行う――失敗。普通の召喚者として扱う――失敗。自分で考えるように誘導する――失敗。裸一貫で放り出して成長を促す――失敗。何一つ干渉しない――失敗」


 正に失敗の羅列だ。ここまで失敗を続けると心が折れそうだが、幸いそれぞれの失敗は俺でありながら別人でもある。一人で負担したわけじゃない。

 そしてこれにはきちんとした意味がある。


 自分の性格を考えれば、最初に協力を仰ぐ。当然協力を仰いだ以上、全てを話したのだろう。そして失敗した。

 だが一度で俺が諦めるか? それは無いな。

 何度も何度も失敗し、やがて断念した。この方法では未来は無いと。

 そうだ。時間が無いからあれしか口伝を残さなかった。残せなかったと言って良い。

 だけど、そこには十分な意味を込めたはずだ。言葉の奥もしっかりと考えろ、俺。


 最初の『 まず最初に全てを伝えて協力を仰ぐ』。これは間違いなく一番多くやった。

 何度も何度も繰り返し、その度に失敗した。もっともやるべきであると考えるこの道が、同時に確実に失敗する道でもあったわけだ。

 そして『 全ては伝えないが、協力して研究する』、『先ず鍛え、十分に強くなってから協力を仰ぐ』、『召喚者全員に協力を仰ぎ一丸となって行う』と続く。どれも当然1回で済むわけがない。何度失敗したんだ俺。


 とにかく協力して一丸となる道は全部失敗した。

 だけど俺なら! なんて考えは浮かばない。全部俺だ。俺がやって失敗したんだ。

 他の俺は全部アホだが、俺だけは何でも出来る天才だ! などという己惚うぬぼれは無い。

 その後の失敗がある以上、もう協力の道は完全に行き詰ったと考えられる。


 その後は『 普通の召喚者として扱う』、『自分で考えるように誘導する』、『裸一貫で放り出して成長を促す』、『何一つ干渉しない』となるわけだ。

 何と言うか、段々と突き放した感じになって来る。

 ここまで来ると口伝の量も相当な量になっているはずだ。覚えるのも伝えるのも大変だろう。

 間違いなく、初期のクロノスの仕事は、膨大な量の口伝を書き写す作業から入ったに違いない。

 その前に怪物モンスター戦とか色々あったわけだろうけどな。


 ただ間違いなく言える事は、最初の方ほど試行錯誤が多くなり、後ろの方はまだ改良の余地があるって事だろう。

 順番がそれを物語っている。

 これからは、再びトライアンドエラーの日々が始まるだろう。


 さて、そうなると考えるべきは次の手だ。

 新たに召喚されてくる高校生の俺。そしてまだ分からないが、以前にも召喚されていた人たち。

 彼らに対し、俺はどうすればいいのか。それを考え、実行しなければいけない。

 ゴールは決まっている。怪物モンスターの本体を倒し、地球の安全を確保してから生き残った召喚者を帰す。

 そう、生き残った召喚者だ。

 これから何人も呼び出し、何人も死ぬだろう。

 俺が出来る事は、彼らが少しでも長生きできるようにする事であり、同時にラーセットの安全を確保する事だ。この国の滅亡は、俺達人類の滅亡と同義なのだから。

 先ず足場を固める。きっと何度繰り返しても、これだけは変わらないだろう。

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