第230話 やはり帰ることは出来る様だ

 いきなり召喚者が世界の脅威ときましたか。

 実際その点を整理したいのだけど、今は離席するわけにもいかないしな。沢山の宿題は今夜にでも纏めよう。

 まあ今はとりあえず――、


「俺は最近召喚されたばかりなのでね。なぜ自分が世界の脅威なのか教えてもらえるかな?」


「ああ、教えてやるとも。今より500年以上前だ。我らよりも遥かに北にある氷に閉ざされた小国が滅亡の危機にあった」


 うわ、長そうだな。


「その国が、あろう事か召喚者を召喚したのだ」


 まあ召喚されたから召喚者なのだろうが、ツッコミを入れるのも野暮か。


「その結果どうなった!? 知らぬわけがあるまい」


 知らねー。そういった歴史はまるで聞いてなかったな。

 そもそも、そんな余裕が何処にあったよ。興味も無かったしな。


「貴様、聞いているのか?」


 一瞬内面を読まれたかのような気がしてドキッとしたが、単に俺の聞く気の無さに業を煮やしたのだろう。

 実際に長い話になるならいずれまたと言いたい。

 というか他の三人も神妙な顔をしているが、内面的には面倒臭がっている事が分かる。

 ああ……本当に長い話なんだなこれ。





 要約すると、かつて極北の地にとても小さな国があった。

 その国は周辺の大国の宗教に改宗しなかった為、神に背いたとして近隣連合国で討伐に向かったという。

 その数、北方国の総人口2万に対して300万人の大軍勢。

 当然、最初から勝負になどなっていない。先遣隊の1万の兵だけで街は蹂躙され、たった一つの首都は陥落し、残った国民は千にも満たなかったという。


 だがその時、その国に召喚者が現れた。

 後は長ったらしい話だったが、もはや説明すら不要だろう。

 その召喚者は先遣隊を殲滅し、更に集結しつつあった連合国軍を各個撃破し、迷宮のセーフゾーンの守護者を参加国家の領内に解き放ったらしい。

 世界は阿鼻叫喚の地獄に包まれ、収まるまでに300年ほどかかったそうだ。


 まあご愁傷さまとしか言いようが無いが――、


「その召喚者の名前や容姿は伝わっているのか?」


「なぜそんな事を気にする」


「同郷の者だったら、謝罪の一つも入れないといけないと思ってな」


 全くの嘘だけどな。そんな昔の事に責任などもてるか。大体話からして自業自得じゃないか。


「本来なら口にするべきものではないが――」


 そう言って、目の前の中空に複雑な印を刻む。魔除けみたいなものか。

 そういえば怪物モンスターにも固有名があるはずだが、皆口にしない。禁忌みたいなものでもあるのだろう。


「マリッカ・アンドルスフ。二度とは口にはしない。悪鬼羅刹の名だ。容姿は銀髪に碧色の瞳をした女と伝えられている」


 それだけだと、何処の国の人間かはさっぱりだな。

 そもそも地球にある名前なのだろうか? まあ偽名の可能性もあるが。

 なにせ、向こうで聞いたニュースでは世界中で大量不審死が発生していたそうだ。

 そう考えれば、他の国の人間が召喚されていてもおかしくはない。

 それにまあ、今は無いがかつては召喚者が他の国にもいたとは聞いていたしな。

 他の国にいるという召喚者にも会ってみたいものだ。そして、何年の何月何日に呼び出されたのか、是非とも知りたいものだな。


「その召喚者は、今でもそこにいるのか?」


「何度か帰ったそうだ。だがその機会に2度攻め込んだが、その度に召喚されたと伝えられている。そして3回目に先ほど語った大罪を行ったのだ。その後はまた帰ったと言われているが、さすがに、もう誰も再度召喚されるかを試すものはおらぬ」


 先ほどってのは、セーフゾーンにいる黒竜みたいのを解き放ったって事なのだろう。

 まさかラーセットを襲ったのもその中の一つだろうか――いや、それは違うな。黒竜は”大変動による事故”だと言っていた。無関係だろう。

 だけど今の話が真実なら、本当に行き来が出来るという事になる。

 それだけでも、このつまらない席に出た価値があるというものだ。


 というか、帰ってすぐ攻め込むのを2回やるって執念が凄い。しかも結果はぼろ負けのあげく、大量の強力な怪物モンスターを解き放たれたとはね。

 召喚者が災厄と言っていたが、どう考えても自業自得だ。

 とはいえ、異邦人より現地人の味方をするのが生きる知恵というものだ。特に関係国やその宗派の人間は召喚者が嫌いなのだろうな……って、この国の国教ってどうなっているのやら。


 ちらりとミーネルを見るが、にっこり笑って頷いただけだった。うん、さっぱりわからん。

 まあそれは置いといて、やはりセポナの言った通り、あの怪物モンスターは伝説級の怪物で世界にとって大きな脅威なのだろう。

 そしてまた召喚者も、やり方次第では十分に世界の脅威となり得るわけだ。

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