第186話 思ったよりも召喚は大変なのだな

「生贄って言うのは言葉通りに受け取って良いのか? ならどんな人間が生贄に選ばれるんだ?」


 内容次第では、この国の印象はガラリと変わるぞ。


「選ばれるんじゃなくて、志願制ですよ」


 あ、この辺りはセポナが詳しいか……って当たり前だな。この世界の人間なんだし。


「皆さんの世界にも確か……ええと……ドナドナカードでしたっけ? そんなものがあると聞いています」


 ……なんだその市場に連れていかれそうなカードは。


「ドナーカードですね」


「そう、それそれ。もう助からないような病気や怪我をおったり、誰かに大金を残したいような人が登録するの。もちろん、審査は厳しいのよ。単なる借金で――なんてのは門前払いされるだけね」


「もうどうしようもないような人が、あくまで自分の意志でするわけか。ドナーカードとは少し違うが、ニュアンス的には遠いわけでもないな」


「そうそう。ついでに言うと、生贄の家族は大金と結構上の社会保障を得られるの。まあそれで、いざ召喚となったら300人位が集められるわけ」


「いやちょっと待て。何でそんなに人数が必要なんだ?」


「実際に何人召喚されるか分からないし、ケチって失敗したら大変だからかな。そんなにっていうけど、結構志願者は多くて狭き門なのよ。それにハッキリ言ってしまえば、召喚の為に必要なアイテムの方が貴重かな。だから常に限界に挑戦って感じ。でも実際、私達の命一つで召喚者を呼ぶなんて無理よ。最初の一人を呼ぶ時は何度も何度も失敗して、遂には神殿庁を除いた2庁の長官と、3庁の家族親類まで含めて千人を超える数を投入したそうよ」


「ひどい話だな」


 それだけの犠牲のもとに召喚された人間は、一体何を想ったのだろうか。

 ……そういえば名前だけは何度も聞いているな。さすがに会ったことは無いが、クロノスといったか。召喚者全員を統一する人間で、今までの話を総合すれば、現在の召喚者のシステム……働かせるための嘘から好待遇、特権まで、全部こいつが決めたらしい。

 そして何度も召喚者に反乱を起こされながらも権力を維持して、もう百年以上この世界にいるとか。

 会ってもみたいが、これは単なる好奇心。本当に出会ってしまったら大変だ。絶対に避けなきゃならない一人と言える。


「まあそんな訳で、実際に何人来るかは分からないからある程度まとまってからやるんですが、それ以外にも制限があって――」


 まだあるのか。


「短期間で連続してやろうとすると、召喚のシステムが壊れちゃうとか聞いていますよ」


「実際には敬一けいいち様が見たという、時計が安置されていたという搭です。わたしくも実際に壊れたという話は知りませんが、そう言われています」


 なるほどねー。あれがどのくらいで作り直せるのかは分からないが、果たしてそれだけか?

 俺なら時計の方にも何らかのダメージがあると考える。塔が壊れるような期間は召喚など出来ないだろう。


「ん? 俺達が召喚された時は、14人だったな。まあそれだけ死んでしまったという事なのだろうが、あれから召喚は行われたのか?」


「大変動の後、暫くして1回だけ行われております。何人かと連絡が取れなかったため、万が一を考えて行ったとか」


「それで何人が召喚されたんだ?」


「7人となっております。彼らの予想よりも犠牲は少なかったわけです。通常は10人以上を失った辺りで行いますので」


 俺と一緒に帰るはずだった3人。それに俺が殺してしまった2人。後は龍平りゅうへいと同じチームだった二人か。

 そういえばあの二人、何で死んだんだ?

 先輩なら知っているだろうが、迂闊に聞くのは怖い。まあ知らなくてもいい事だし、ここは放置しておこう。

 大体3か月あれば新たな召喚が可能と分かった事の方が重要だな。

 それより問題になるのが――、


「そうすると、現在召喚者は49人って事になるのか?」


「……」


 あれ? セポナとひたちさんの目が怖い。というか呆れている。

 ああ、そうでした。あの金城とか言う奴の他に、木谷きたにと戦った時に二人やってしまったんだ。


「47人で良いのかな?」


「はい、今の時点ではそうなっています。皆慎重に行動していますし、帰還を望む者もおりませんので」


「それは良かった」


 帰還という名の自殺者がいないだけでも、俺が時計を奪った価値があるってものだ。

 もっとも、上の連中からしたら問題だろう。

 今までは帰りたいというものは帰してきた。実際はともかくな。

 だけどこれからはそれは出来ない。やがて溜った不満は――ああ、今は俺に来るだけだ。ちっ!





 ※     ▽     ※





 チームの全員と別れた後、龍平りゅうへいは一人で迷宮ダンジョンを彷徨っていた。

 瑞樹みずきを取り戻す為。その為には、必ず敬一けいいちの息の根を止めなければならない。

 瑞樹みずきは、そんな俺を許すだろうか? 許すわけがない。そう思うと、口の端が自然と緩む。

 彼女はどんな表情をし、どのような汚い言葉で俺を罵るのだろうか?

 そしてどんな声で鳴くのだろうか?

 自分は狂っているのだろうか? そんな事、今更考えるまでもない。

 今はただ進む。何処までも……奴らを見つけるまでは……。

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