第183話 なんだか因縁を感じるな

「それで、あれが話にあったセーフゾーンか」


「確かにそれで合っています。間違いありません」


 物凄く複雑な立体地図を見ながらひたちさんが確認する。

 ここはゲームのように綺麗に階層が分かれているわけじゃない。地図を見るだけでも大変だ。ちなみに俺にはまるで理解できなかった。

 しかも俺がスキルでショートカットしているのに、正確にそれを書き込んでいくのは流石としか言いようがない。


「あ、座標を正確に探知する道具アイテムがございます。それを使っているのですよ」


 俺があまりにも興味津々に覗き込んでいたからだろう、ひたちさんが説明してくれた。

 普段は料理や荷物整理、通信に夜のお相手にみんなの体調管理などもしながら、こんなにも複雑な事もやっていたのかと感心してしまう。

 でも今は、目の前に見えるあれだな。


 白い世界に黒い影。モノトーンの美しい世界の先に、大きなアーチ形の入り口が見える。

 ここだけは薄茶のレンガ作りという感じで、いかにも異質だ。あれがセーフゾーンに間違いないだろう。


「あそこがヌシってのがいる場所か」


「お気を付けください。ヌシは相当に強い怪物モンスターと言われています」


「その様子だと、ひたちさんは戦った事は無いのか」


「私も無いよ。そもそも、ヌシと戦う時は救援を呼んで、出来れば教官組。そうでなければ10人以上で当たれって教わっているよ」


 もうこの時点で帰りたい。教官組って名前だけで軽いトラウマだ。それ程にあのフランソワっていう少女は強かった。それにもう一人から発する力具合も、決して彼女に劣ってはいなかった感じだ。

 正直嫌だなと思うけど、それでOKとはいきませんよね。そんな事は分かっているさ。


「毎度の事だけどセポナは待機。それと先輩も戦えないよね?」


「武器を振るくらいなら、私でも出来るわ」


 うん、却下。その次元で連れていけるほど甘くはない。

 しかしそうなると……。


「取り敢えず2人は残して3人で行こう。それで相手の様子を見て、不利そうな方は2人の護衛に戻ってくれ。戦闘は2人でやる」


「大丈夫、気を使わないで」


「いや、それは無理」


 先輩にもしもの事があったら、俺はもう生きていける自信が無い。

 それ以前にセポナが死んだら俺も死ぬしな。護衛は絶対に必要だ。


「とにかく見てからだ」


 そんな事を言いながら、ふと考えていた。

 セーフゾーンは基本的に怪物モンスターの入らない安全地帯。だからこそセーフゾーンと呼ばれているのであり、町が作られたりもする。

 だが稀に、そこにもモンスターが入り込んでくるらしい。大抵は対処できるが、滅んだ街もあると言うのだからあなどれない。

 だけどセーフソーン自体に住み着いているというのはそれとは違うのだろうか?

 俺は何となく、初めて出会った怪物モンスターである黒い竜を思い出していた。

 今思えば、あいつ……結構美味かったな。

 じゃない、不思議な変な部屋にいたな。





 そうして中を覗くと、なんか黒い尻尾が見えるし。それにデカい。背中には翼が2枚あり、あれは間違いなくドラゴンの背中だ。

 取り敢えず気付いていない様なので、外で輪になって相談する。

 俺が行くのは当然として、ドラゴンって呼吸するのか? だったら咲江さきえちゃんで一発だ。

 だけどあれだけでかいと、一回の呼吸がどれだけ影響を及ぼすのか分からない。それに人間ほど脆いとも思えない。そう考えると、多分ダメだな。


 ひたちさんは基本的に何でも出来る。実はスキルは知らないんだよね。聞けば教えてくれるのかな?

 なんとなく聞きそびれたまま今まで来てしまったが、さてどうしようか……。

 まあ今はいいか。話が長くなるかもしれないし。とにかくバランスよく戦えるのがひたちさんの魅力だ。

 ただ場合によっては、俺一人で戦うのがベストかもしれないとは思うが……。


「よし、先ずは俺がドラゴンと戦って様子を見よう。俺がダメそうなら咲江さきえちゃんも攻撃して、効くならそれで良し。効かなかったら先輩たちの援護の為に下がってくれ。あとは俺とひたちさんでやる」


「わかった」


「かしこまりました」


「それでもダメならひたちさんも逃げてくれ。俺も後から逃げる。その時は改めて対策を考えるとしよう」


 これで作戦は決まった。後はもうやるだけだ。

 腰に下げた勇者の剣を抜く。あの時も、この剣の持ち主は竜を倒していたな。

 まあ完全に死んではいなかったが。

 あそこで欲をかかなければとも思うが、結果は同じだっただろう。俺が存在する事自体が問題だったのだから。


 そんな事を考えながらゆっくりと部屋に入る。

 恨みは無いが、今まで山ほどの怪物モンスターと戦って来た。

 でも黒い竜か……色々と因縁を感じるな。親戚とかならどうしよう。

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