第180話 平和な世界ではないと感じてはいたけどな

 到着すれば、場所はすぐに分かった。

 いやまあ、到着する前にはもう分かっていたけどな。

 結構崩れた箇所があるとはいえ、ロンダピアザと同じような翡翠色の壁は遠くからも見えた。

 そういや迷宮ダンジョンで見た事は無いが、あの素材って結構沢山取れるんだな。


 そして壁の中に入ると、そこは大体想定通りだった。

 数本の高層ビルが幾つか残っているが、他は完全に瓦礫の山。そしてあちらこちらに生えた草木に覆われた世界はジャングルのようになっていて、沢山の生き物の鳴き声が響いていた。


「ここは完全に滅んでいるんだな」


「大昔は栄えていたそうです。ですが、怪物モンスターによって滅ぼされました」


 ひたちさんのその言葉に絶句し、自分がまだまだ甘かったことを実感した。

 考えてみれば、それは当然あり得ることだ。

 高い壁を築き、周囲を警戒し、迷宮ダンジョンから宝や鉱石、貴金属などを採掘する。

 それがこの世界のあり方であり、全ての国の首都には固定された迷宮ダンジョンの入り口であるセーフゾーンが存在する。

 そして、そのセーフゾーンに滅多に怪物モンスターが入る事は無い。入った種類によっては大変な事になるそうだが基本的には安全だ。

 だからだろうか、頭から外れていた。自分で使っておきながら間抜けな話だ。


 迷宮ダンジョンの出入り口は、大変動によってあちらこちらにポコポコと開く。

 当然、それが街中である可能性もあるわけだ。


「人が対処できない程の怪物モンスターが出て来たら、対処不能になるわけか。他の国には召喚者もいないしな」


「詳しい事はわかってはいないのです。ただここは小国でしたので、殆ど抵抗らしい抵抗は出来なかったと聞いております」


「それで、ここが放置されているのはなぜだ? 戦争をしてまで他国を奪う事もあるんだろ? それに比べれば、ここは空白地のようなものじゃないか」


「ここまで壊れちゃうと、もう再建が大変なんですよ。普通は経済封鎖したり圧力を掛けたり、戦争するにしてもまあ降伏するまでです。負けを認めればそこで終わりですね。少なくとも、ここまで全てを破壊する前に決着がつきます」


 なるほど――セポナの言う事ももっともだ。死なば諸共なんてトンデモ精神でない限りは、負けて奪われるくらいなら国民全員死のうなんて有り得ない。

 その一方で、あの壁を建設するのにどのくらいの期間がかかるんだろう。

 まあ材料は迷宮ダンジョンに潜ればあるとして……って、ここのセーフゾーンってどうなっているんだろう?


 それ以前にどうやってここを再建するよ。

 あれだけの物を作れるんだ。多分重機のような物はあるのだろうが、それを大量に運ぶ必要がある。そのためには道を作って……ハイ無理―。

 こんなモンスターの徘徊する世界で都市建設なんて、それこそどれほどの物資と年月、そして命が失われるのか分からない。

 以前、こんな世界で大都市を建造して発達した人類は凄いと思ったが、壊れてしまえばこんなものだ。

 こんな歴史を、ずっと繰り返してきたのだろうか? だとしたら大変だな。

 案外、この世界はゆっくりと滅びに向かっているのかもしれない……ここだけは俺達の世界と変わらない、青い空を見上げながらそう思った。





 ■     ※     ■





 仲間との合流場所は、入ってすぐのところだった。

 テントどころかログハウスが幾つも作られている。どれだけ長い事、ここに住んでいるんだよ。


「やあ、待っていたよ。そろそろだと思って、雅臣まさおみ君たちは待機中さ。こっちに居るから案内するよ」


 そう話し掛けてきたのは、大量の薪を鉈で叩き割っている最中の人だった。

 大量の汗をかいているが、薪割りはかなりの重労働だ。当然ではあるのだが……。

 少し赤みがかった黒い髪に、微かに茶色が見える黒い瞳。どことなく東南アジア系を思わせる顔つきは少し童顔だが、何となく直感で俺より年上な感じがする。

 ただそれ以前に、キッチリと着込んだ詰襟のような形状をした金属鎧にファーの付いた真っ赤なマント。帽子は三銃士が被っているようなマスケットハットに極彩色の鳥の羽飾り。

 頭おかしいんじゃないのかこの人?

 なんて口が裂けても言えないけどな。


 セポナの持っていた固形燃料みたいのもあるが、やっぱり町から遠くなるとこういったのも自給自足になるんだな……ってそんな事はどうでもいいや。


「貴方は?」


「これは失礼した。自分は柴村賢しばむらけん。あの村の住人だよ」


 同じ日本人である事は分かるが、鍛えられた筋肉に日に焼けた黒い肌。多少偏見だが、無駄にさわやかな風貌は典型的なサーファーを思わせる。

 何処から見ても研究者には見えないが、まあ人は見かけによらぬものと言うのはこの世界に来て改めて学んだ事だ。

 そして案内されたログハウスには、その典型のような人がいた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る