第169話 秒針
確かに数は多かったが、二人で戦えば大した相手ではなかった。
まあ元々数だけで強い相手でもないが。
でもこれで一息つけるだろう。
「お疲れさまでした」
「あ、ああ。まあ疲れちゃいないがな」
言葉通りだろう。あれだけの数を倒したのに息も上がっていない。
「まあコーヒーっぽい物でも淹れるよ。いつかの焼き鳥のお礼とはいわないけど、それなりに美味いんだ」
のんびりと目の前でコーヒーを淹れ始めたが、こいつは自分の立場を分かっているのだろうか?
いや、分かっていないはずがない。あれだけの大量殺戮を行ったのだ。サイコパスか、もう精神が破壊でもされていない限り、この世界に存在する全ての人間が敵だと理解しているはずだ。
だがその考えを、もう一人の自分が否定する。
かつてのトラウマ、そして評判からずっとボッチで行動していた召喚者。
暫くは自暴自棄になって
命令したのは誰だったか? 覚えてはいない。
能力を制御できるように、同じ教官組の
その彼女が奴の仲間になった。抹殺命令を知らないはずが無いのに。俺に思いもつかないような、相当な理由があったのだろう。
そのこと自体はもう仕方がないが、こいつにはそれだけの魅力があるとでもいうのだろうか?
だがそれは、教官組である自分には関係ない事だ。あくまで職務を全うする事が全て。
任務は
逆ではないのか? そう考えた時の事を考える。
自分達教官組の6人は、先日の大変動の後、召喚庁の庁舎に呼び出された。
そこにいるのは、この国で召喚が行われてから間もない人間。数十年どころか、百年を過ぎた者もいる。それだけの間、自我を失わないでいる正真正銘の化け物だ。
だが同時に、誰よりも尊敬している。それはただ強いというだけでなない。人格的にも信用できる方々だからだ。
庁舎では最高司令であるクロノス直々に指令が下った。
とはいっても姿は見えない。声も人とは違った雰囲気で、どうにも居心地が悪いが仕方がない。
彼は国家を運営する四つの長官の内、召喚庁を治める頂点だ。そしてその特殊性から、国家の最高機密に属する人間なのだから。
「今更改めて呼び出したのは他でもない。
その言葉を受け、俺達教官組のまとめ役、
「未だに何の成果も出せていない事、教官組として恥ずかしく思います。また、新たな召喚が出来ない現状の厳しさは十分に理解しているつもりです。ここは総力を挙げて探索に当たりましょう」
確かにそうだ。元々は新人召喚者を無駄にしない為に色々と教育を施すのが任務だ。
一応は召喚者同士の問題を解決するという任務もあるが、これはずっと地上にいるから与えられた副産物に過ぎない。新たな召喚者を呼び出せない現状、地上に留まる理由の大半は失われている。
何より、召喚者は貴重で特権を有している。現地人の殺戮でもしない限り、肝心なところで手は出せない。
正直、地上勤務など暇で暇でしょうがないのだ。
「その点に関し、君らを責めるつもりはない。ただ改めて任務の確認と、並行して別件の任務を頼みたい」
「別件?
「これはある意味、最重要と言って良い。
全員に緊張が走る。今この状態で、
「これは精巧に作らせたレプリカだが――」
声と共に、テーブルに一本の針が出現する。針と言っても縫い針の様なものではい。
黒く細く、平たく長い三角形。全く想像もつかない。ただよく見れば、根元の方が折れている。何かの付属品だろうか?
「これは秒針?」
気が付いたのは
「まさか秘宝のですか?」
「その通りだ。どうやら途中で落としたようでな。現在は
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます