第160話 後は仲間に託そう
死を恐れない――いや、そういうんじゃなくて、もう素直に受け入れているという感じか。
まあ誇りの為に美しく死ぬという概念は、俺のいた世界でも美徳として残っている。武士道とかな。
否定はしないが、俺は最後まで足掻くし、どこまで逃げてでも目的を果たす主義だ。決して相容れないタイプだな。
「本当に分からない事ばかりだ。初対面で恨みがあったわけでもないだろう? まさか昔男に振られて、俺がそいつに似ているからとかは勘弁してくれよ」
「……」
いや無言は止めて。もし本当にそうだったらバカみたいじゃないか。
「それで……まさか本当にアイテムを出すとか期待して来たわけでは無いのでしょう? 本題は何ですか?」
いや本当にそれです。まあ次点だけどね。
本題は大声で騒ぎまくって警備隊にでもわらわら来てもらいたかったのだが、なんかもう環境からして失敗だ。ここでこいつが泣こうが叫ぼうが、誰一人として来やしないだろう。
というか、今更騒いでくださいとも言えないぞ。
「なあ、今まで何人位の人間を召喚したんだ?」
「いきなり何の話です?」
「お前の罪の話さ。何も知らない人をこの世界に召喚し、騙し、散々働かせて使い捨てる。罪の意識なんかは無いのか?」
「全てはラーセットの発展の為。わたくしは、自分の仕事に誇りを持っておりますので。それに何より、これはクロノス様がわたくしに与えてくださった崇高な任務。貴方の言うような罪の意識はありません」
そう言えばクロノスってのが召喚者のトップだったか。繋がっていてもおかしくは無いな。
だがそうだな……やっぱりこの女も歯車の一部か。中核はもっと別の場所にいる。
「なら、そのクロノスとやらに聞いてみたいものだな。何処まで人の心を捨てて外道になれば、こんな召喚なんて非道な真似が出来るのかとな」
「あの方を侮辱することは許しません!」
――多少挑発をしてる自覚はあったが、あの冷静なこの女の豹変に少し驚いてしまった。だがそれも一時。すぐにいつもの冷静な姿に戻ると――、
「クロノス様はこの世で最も崇高なお方。そして先祖代々、このラーセットの為に尽くされたお方です。今の貴方などに、その苦労は決して分からないでしょう」
「将来的には分かるようになるってか? あり得ないね。死んでもごめんだ。というか、そのクロノスってやつが召喚させていたから、結果としてアンタは処刑されるんだろうが」
「処刑の原因は貴方です。クロノス様は関係ありません」
まあそうなんだけどね。というよりもう
それと同時だった。もしかしたら、無意識にスキルが今の状況を作り出していたのかもしれない。
響き渡るサイレン。言葉はわからないが、同時にかなり焦った感じの放送が流れている。
まあ俺の事と、捕えろとかの話と、民間人への避難指示ってところか。
「じゃあな。そろそろ時間の様だ」
「わたくしを殺すのでしたら今の内にどうぞ」
「そんな事はしないさ。いや、もし命乞いでもしたら殴り倒してやったかもしれないけどな。だけどそんな事をしたって、アンタには何も響かない。だからクロノスってやつを、代わりにとっちめてやるよ」
「あの方に――あの御方に手を出すなど許しません! この身に代えても! たとえ死しても! それだけは絶対に許しません!」
やはり、そのクロノスって男の名を出すと様子が変わるな。
目力だけで俺を殺しそうな程に悔しそうだが、残念ながら彼女は捕らわれの身だ。
今回はまあ、この程度で勘弁してやるさ。目的は達したしな。
廊下に出て、外壁まで一気に外す。同時にその残骸を俺から外して突っ切れば、まるで磁力で反発する様に残骸が吹き飛ばされていく。そして突っ切った先は外。
凄い高さだと
あの時は闇への落下だったが、今回は眼前に人の
俺は覚悟を決めて、超高層ビルの途中から飛び降りた。
これで準備も陽動も完璧だ。
まあ着地は心配ない……よな、多分。これで死んだら嘆き悲しむより呆れられてしまうだろう。それなりにスキルの負担は大きいだろうけどな。
だけど間違いなく、俺がスキル制御のアイテムを最優先に取りに来たと思わせただろう。
そして彼女に聞くはずだ。「何か言っていたか?」と。
あの剣幕を考えれば、当然クロノス様が危ないとでもいうだろう。
召喚者のトップ。それに話からして、予想通り国の重鎮でもある。
そしてそこに向かうのは、史上最悪のテロリスト。得体の知れないスキルを使う悪魔のような召喚者だ。必ず警備はそこへ集中する。
後は頼んだぞ、ひたちさん、
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