第141話 よりによってそこかよ
ロンダピアザ周辺は、常に多くの人間が活動している。
森林資源や貴重な植物などは様々形に加工され、流通の一端を担っている。確かにこれらを都市で調達するのは難しそうだ。
そしてそんな人たちを護るために、武器を持ち、鎧を着こみ、
この世界の人間にとって、それは単なる産業というよりも、この世界で生き残るための義務と呼んでも差支えは無かった。
「人と出会う可能性は外しているはずなんだが、結構野営の跡とかがあるな」
「アンタのスキルって便利だし汎用性も高いよね。でも制御は出来ないんだっけ?」
「あの意地悪な神官様のせいでね」
思い出しても腹が立つ。処刑される前に、やっぱり一発殴ってやりたい。
「まあそのせいで、精神を落ち着かせてこの世に留まるには――あー、言いにくいんだけど、女性との関係が必要になるんだよ」
「そっか。その辺の事は聞いてなかったから、単なる女好きかと思ってた」
結構ショックな告白である。
「そんな人間を初めての相手に選んで良かったのか? 後悔はしていないのか?」
「アンタが私たちの為に帰還方法を探しているって話、嘘とは思えなかったよ。それに初日に帰った話は私も聞いていたからね。でもまだここに居る。それだけでも、あっちを疑うには十分さ。それに――」
「それに?」
「ずっとソロで寂しかったというか……でも相手がいなかったというか……アンタは私よりも強いし、命の恩人だし、結構タイプだし……もう、言わせないでよ!」
真っ赤になってもじもじしている。自分を作っていないとこうなるって事は、やはりこちらの恥ずかしがり屋で口下手な彼女の方が本来の姿なんだろうな。
「その……そういう事情なら、ちゃんと協力するよ。な、なんなら……外でも構わないし」
ああもう可愛い。でも今はそれどころじゃないな。
「隠れて!」
その一言で、理由も聞かずに音もなく茂みに消えた。彼女もまた、この世界で生き抜いてきた生粋の戦士って事だ。
俺も隠れたあと、100人ほどの兵士に護衛された荷車が運ばれていった。町の方からだから、野営地にいる兵士達への補給部隊ってところか。
「そのスキル、便利だけど万能って訳でもないのね」
「いくら会う可能性を外していても、ここまで飽和しているとね。通り抜ける隙があんまりないんだよ」
そう、ダークネスさんでも俺を見つけられなかったが、俺から人に飛び込んだ時はまるで意味がなかった。
もう都市周辺で人間も多い。このスキルで可能性を外せるのもそろそろ限界か。
「俺は手配されているんだよな? 何処まで正確に?」
「名前は当然として、顔写真どころか会話している姿まで国中に流れたよ。何度も何度も、それこそ飽きるほどね。この国でアンタを知らない人間なんていないと言って良い位だよ」
「参考までに、どんな会話のシーンが流れたんだ?」
何気ない話だが、それによって彼らの監視状況を知る手掛かりになる。どんな小さな情報でも逃せないな。
「アンタが
……死にたい。聞かなければよかった。いっそ殺してくれ。
なんて落ち込んでいてもしょうがない。とりあえずその映像を流したやつは機会があったらぶん殴るとして、今はそれより潜入だ。
もうずいぶん前から見えているが、眼前には天を衝くような壁が立っている。というか、途中には雲がかかっていてその上が見えない。本当に異常な高さだ。
まあ今の距離はほぼ10キロメートル。そして壁の高さは4~5キロ程だという。富士山の麓から富士山を越える高さの壁を見上げているのだ。中々の迫力だと言えるな。
「それでどうやって入るつもり?」
「普通に壁を壊して潜入するよ。そっれが一番手っ取り早い」
「そんないかにもな入り方をして、バレたりはしないの? あ、もしかして修理も出来るとか?」
「いや、外すだけ。要するに壊すだけだな。そんな便利なスキルだと良かったんだけどな」
とまあ、口ではそう言いながらも内心ではかなり便利なスキルだと思っている。
右に行くか左に行くか――そんな風に迷った時に、頭にピンとひらめくのだ……こちらに行けと。
それは目的に合致しないルートを無意識に外している結果である。この力にどれだけ助けられてきたか。
そう思いながら、次の方針を考える。
このまま真っすぐ行くか、それともまだ彼らの味方と思われている
だけど、何の答えも出てこない。スキルは何も示さない。
ああこういう時は決まっているんだ。
目的を果たす為に、避けられない場所が目の前にある。あの
「全員警戒。特に
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