第140話 想定よりも危険だったがやはり外を行くしかない
彼女の存在は頭の端にあった。何せ中学では超有名人だったのだから。
だが何処の高校に行ったのかまでは知らなかった。そこまで異性に興味は無かったのだから。
しかし、その彼女が予定していた高校に進学していた事実に運命を感じた。
同時にどう近づくかを画策したが、それは意外と簡単だった。拍子抜けするほどに。
彼女には妹がおり、その妹には付き合っている男がいた。どうやら幼馴染らしい。
将を射んと欲すればまず馬を射よ――ではないが、彼に近づく事にした。
だがどうするか? 本来ならばそこが問題となるはずなのだが、誰もが嫉妬の炎を投げつけるだけで近づこうともしない。
これは推理だが、仲良くするか敵対するか……その選択で、最初の誰かが敵対の道を選んだのだ。そして周りはそれに追随したのだ。
実に愚かだが、チャンス以外の何物でもない。
「やあ、ここ良いかい?」
彼がひとりで図書室にいる時を見計らって近づいた。
その後何を話したかはもう覚えてはいない。彼も俺にはさほど興味は無いようだった。
だが何度も話すうちに、自然と
他の連中は相変わらず遠巻きに見ているだけだ。色々と嫉妬や画策もしているようだったが、俺の素性を知らないものはいない。
誰も手を出す事など出来ない。しかも
この関係を続ければ、最後にどうなるかはもう火を見るより明らかだ。
そんな約束されていたはずの将来が、あの日に崩れ去った。
▼ △ ▲
「お、雨もようやく止んだな」
あれから3日。
さすがに怪我人に、あの雨の中を行軍させるわけにはいかなかったからな。
ここからは予定通り……というより今まで通り俺が先行偵察を安全を確保した後、ひたちさんたちが付いてくる。ただ変わった点といえば、今までの1:2から2:2に変わった事だ。
そう、
何といっても、彼女が存分にスキルを駆使して戦うには、ソロであるか俺と一緒、どちらかしか選択肢が無いのだ。
そんな訳で、俺と
「少し戻る事になったけど、そろそろまた30キロ圏内か」
「そうね。そろそろまた巡回に出会う率が高くなるわ」
あ、口調が完全に元に戻りつつある。落ち着いて来たのか……いや、それだけじゃないな。
彼女は相当な腕前。ベテランといってもいい。自然と危険を感じて引き締まってきたのだろう。
「やっぱり距離は関係あるのか?」
「南北に大国があるのは知っているかな?」
「ああ、その辺り地理や世界関係は勉強済みだ」
「さすがだね。まあアレだけの事をしたんだ、ただの馬鹿じゃない事は分かっていたけどね」
自分で言いつつ変な事でも想像したのだろうか? 湯気が出そうな程に顔を真っ赤にして咳払い。うん、多分夜の方を思い出していたな。
「と、とにかく、両国に近い方面は幾つもの
「ふむふむ」
「でも30キロメートル以内は大体都市圏なんだよ。この位の距離にモンスターが出現すると、外の集落に相当な被害が出る。だからこの辺は巡回しているのさ」
ちょっと想定外の情報があって助かった。
南北の国方面から来ていたらヤバかったな。
だけど巡回している人間がいる事には変わりは無い。しかも俺の存在はバレている。
きっとあの一帯には、今頃相当な数の人間が集まっている事だろう。
「さて、それじゃあここから少し南下するとしよう」
「地下から行くの?」
「いや、それは時間がかかりすぎるからな。少し危険だけど外を通るよ」
そう俺達の寝床は地下にあった。とは言えダンジョンまでは遠かったので、本当にただの穴にちょっとしたカモフラージュをしたに過ぎない。雨は防げていたが、浸み込んでくる地下水まではどうしようもなかったので環境は最悪だ。
だけど上の偽装は完璧。おかげで見つからなかったが、また危険な地上行動だ。気を引き締めて行こう。
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