第130話 いや口説くわけじゃないけど情報は欲しい
ようやく修復作業は完了。久しぶりだったけど、我ながら完璧な仕上がりだと思う。
「出来たよ。これでどうだろうか」
「大したものね。これなら前より丈夫になっているかも」
そう言いながら、左右に引っ張っている。まあそれは大げさだけど、褒められるのは嬉しいものだ。
「まだ濡れているから、乾いてから着るわ。ま、まあー、その間くらいは話を聞いてあげても良いわよ」
「ああ、ありがとう」
それは本心からの言葉だった。
そんな訳で、俺は召喚された当日に帰還という名のもとに殺されそうになった事。
一緒に帰るはずだった皆は全員死んでしまった事。それらはすべて仕組まれていた事。
その後帰ろうとしたけど途中で戦闘になったり、その時にどしても確認したくて最初の鍾乳洞に戻った事なども話した。
そして地上での事など、もろもろ沢山の出来事もだ。
当然ながら、ひたちさんやセポナとの逢瀬や探究者の村に関しては言わなかった。というか言えないだろ、これは。
だけど
「そっか、それでお尋ね者なのに、わざわざこんなにロンダピアザの近くにいたわけか。得心がいったよ。ただ秘宝が無くてもこの世界での死は本当の死だって事と、帰る事が出来ないっていうのには納得できないな」
「それは分かるよ。俺と彼等、どちらを信用するかと言われれば俺だって彼らの方だ。というより、それ以外に選択肢が無いんだよな、普通に生きていくためには。だけど、俺はこの目で見てしまったんだよ。一緒に帰るはずだった人たちや、俺が帰したはずの人たちの遺体をね」
「だけどそれを証明する手段は無いと」
「ご明察痛み入るよ」
「今の話の流れだとそれしかないだろう。まあ、君の事情は理解した。だけど同じ召喚者としては、君の行為には賛同しかねる。先ずは秘宝を返し、元の状態にしてから話し合うべきじゃないのか?」
その提案は、思考停止すれば魅力的だ。だけど現実的には不可能な話でもある。
「今更、彼等が俺と話し合う事など誰も許しはしないさ。それだけの事をした自覚はある。それに、『これで帰る事が出来る』なんて希望を与えてしまったら、それは人殺しの手伝いをするのと同じことじゃないか」
「アンタのいう事が事実なら、確かに無謀に死んでいく者やアイテムの奪い合いを誘発するだけだね。だけどやっぱり、それを素直に信じるには説得力が不足し過ぎている。誰も信じはしないだろうな」
それは自分でもよく分かっているんだよな。
だからこうして、こそこそとしている訳で……。
「その時に記録用のアイテムでも持っていればね。もし映像が残っていれば、それが決定的な証拠になっただろうに」
「ああ、なるほど。確かにそれが有れば良かったろうが、過去を振り返ってもどうにもならないさ」
その時というのは言うまでもない。鍾乳洞で死体を見た時だ。
2回あったが、どちらも衝撃的だった。趣味の良いものではないが、確かに見て貰えば一発だ。
「そういや記録用のアイテムって、話には聞いているだけで実際には見たことが無いんだよ。どんな物なんだ?」
「色々あるし私も持ってはいるけど、普通に写真を撮るような道具だな」
そう言ってポケットから取り出したのは、スクロールの様に丸めた紙のようなものだった。
「これを広げて――こう」
両手で広げて何かしたが、うん、何も変わったようには見えない。
「ほら、こうすると映像が映るわけさ」
そう言って無造作にくっついてくる。うはー、この子もうちょっと警戒心――とうか、自分の色気を理解した方が良いよ。俺がいうのもなんだが。
「それでこうやって操作すれば、過去の映像も見られるわけだよ。まあもっと複雑なものもあるけど、そういったのは男連中が管理しているな」
「その心は?」
「スキルにもよるが、基本的に男の方が先行を買って出るからね。要は危険な強行偵察さ。高度な品は、そういった連中が使うんだよ」
その高度な品とやらが、多分相当にやばい事に使われていそうだけどな。
だけどこの子は召喚者のポルノが出回っている事を知らなかった。さっき先輩の映像が出回っている話をした時も、「それは許せないね」程度の反応だったしな。
いや、案外現地人のくらいなら知っているかもしれない。当然あるだろうし。その辺りは万国共通だろう。
だけど自分たちが当事者とは思っていない様子だ。
知ったらどうなるか……考えるだけでも怖いな。この状況でも殺し合いが起きるんじゃないのか?
「この辺りなんかは、丁度アンタたちが召喚された頃の記録だね」
色々な事を考えている間に、操作は終わっていたようだ。
そこに映っていたのはパーティ会場だった。あの時に一緒に召喚された連中もいるが、見覚えのない連中もいる。あ、
それに焼き鳥をおごってくれた奴もいる。彼は強いのだろうか? まあ考えるまでもないか。
あの時は見逃してもらったが、ナイフで壁に縫い付けられた焼き鳥の袋……メッセージの意図は明らかだ。絶対に遭わない事を願おう。
「俺が穴から落ちた時、皆はこんな感じだったんだな。
「もう――ちゃんとか言われると困る。回収品を提出するために戻ってきていたのよ」
顔を真っ赤にしてうつむくと、背中をぽかぽかと殴る。無茶苦茶純情すぎて、なんかこっちまでドキドキしてきた。一体どちらが本当の彼女なんだろう。
なんて考えながらも、俺は記録写真を熱心に見ていた。操作法はもう分かったからな。彼女が照れている間に、色々見させてもらおう。
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