第99話 致命傷で死ぬのならもう何度も死んでいる

 ――金属製!?

 思わず切り払う。だがそれはキンと音を立てて弾かれただけだ。空中で姿勢を直し、再び一直線に飛来する。どうなっているんだ。

 更に2つ3つと増える。更に水、血のダガーも混ざる。いったい幾つ制御できるんだ。


 再び金属のダガーを切るが、今度は液体の様に崩れて消える。

 意味が分から――いや、分かった。それと同時に、俺の勘違いもな。

 先ず金属のダガー。こいつは本物と水銀の二種類だ。だが分かっても、二つのダガーの見分けは困難。

 そもそもそれどころじゃない数が迫ってきている。数は完全にブラフ。もう隠す必要も無いって事か。


「クッ!」


 しまった!

 ひたちさんの右足に銀色のダガーが突き刺さっている。ボンテージのブーツを突き破って。

 あれは純粋な金属か。やはり硬度が違えば貫通力も段違いか。


 そう、こいつは液体操作の能力者じゃない。物体をダガーにして対象を攻撃する能力者だ。

 そしてあの形であれば、最初から作ってある金属製品でも同じことが出来るってわけだ。

 完全な勘違い。最初に水をダガーにした時点から思考を誘導されていた。先入観は――、


 そんな反省する間もなく、何かを踏み抜く。

 それは地面から飛び出た石のダガーだった。

 スパイク付きの分厚い金属底のブーツだが、水で人を刺せるなら石でもこの位は出来るよな。

 おそらく、事前に形成してあったのだろう。間抜けな罠に引っかかったものだ。それとも誘導が上手かったと褒めるべきか。


 だが、既に射程内だ。

 痛みさえ外してしまえば、返しの無いダガーを抜くなど造作もない。

 俺は全ての力を振り絞り、禍々しい短剣を振り下ろした。

 だがそれは縦縞スーツの左腕で受け止められる。やっぱりこれも、見た目通りの布じゃなかったか。

 だがあの時のおかげでスキルはワンランクアップしている。地上で戦った時よりも、俺は強い! 強度を外せ!

 スーツに切れ目が入る。そしてその僅かな切れ目が入った時点で勝敗は決した。

 一瞬――人の腕など僅かの抵抗もなく、サングラス男の左腕を斬り落としていた。


 同時に、俺は大量の血を吐き出していた。

 腹に刺さった無数のダガー。これは……砂鉄か。


「賭けは私の勝ちだな。見事なスキルと勇気を称賛しよう」


 俺の周囲を囲む、数えきれないほどの砂鉄のダガー。確かに、材料は山ほどあったな。

 数が多すぎて、逃げ場などどこにもない。

 なるほど、ここまでの戦いが全部罠。俺をここに誘い込むための……。

 斬り落とした左手からは血のダガーが生えていた。あれで止血できるらしい。便利だな。

 そして右手でクイッとサングラスを上げる。だが――、


「残念ながら、その賭けとやらは俺の勝ちだよ」


 体中に突き刺さる無数のダガー。その様子は針刺しよりも酷い。完全に穴だらけだ。

 確かに完璧な致命傷。これで生きている人間は存在しないだろう。

 だけど悪いな、致命傷を受けるのはもう1度や2度の話じゃないんだ。

 こいつは、最初から外してある肉体だよ。


 まるで空間から脱皮するかのように奴の前に躍り出ると、俺は短剣を迷わず後頭部に振り切った。





 ●     ■     ●





「うーん……」


「お、気が付いたか」


「これはまた……意外な状況だ」


 サングラス男に放ったのは峰打ちだ。俺はこいつを殺さなかった。

 左手のダガーは血に戻ってしまったのでちゃんと止血した。これで死んだら馬鹿だからな。

 ついでに縛って、現在は部屋の隅に転がしてある状況だ。


「あれで死なないとは……どうやら君のスキルを甘く見ていたようだ」


「こちらもあんたのスキルを見誤っていたよ」


「そうかね? その割には反応が早かった。早すぎたと言って良い。そうでなければ、目の前に出された金属のダガー……あれを避けられるとは思えんがな」


「最初は液体操作だと思っていたけどな。その割には同じ形のダガーばかり。だから逆だと思ったんだよ。操るのは液体ではなくダガーの方だとな。それは血のダガーを使った時には、もう確信していたよ」


「そこまで分かっていたわりには、よく被弾したものだ」


「うるせえよ。それと、スキルを使うアイテムはこれだろ。悪いが預からせてもらっている」


 それは緑のサングラスだった。


「そこまで分かっているなら、なぜ殺さないのかね?」


「賭けを勝手に仕掛けてきたのはそちらだ。勝った時の取り決めすら無しにな。だからこうさせてもらったという訳だ」


「なるほど……勝者には生が。敗者には死が与えられる。単純な賭けだと思ったのだがね」


「受けると言った覚えもないがな」


 こういったシンプルかつ自分が絶対って思考の奴が一番苦手だ。正直関わりたくもないがそうもいかない。

 こいつからは色々と情報を聞き出さないとな。

 他二人は……まあやってしまった事を悔いても仕方がない。

 正当防衛だしな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る