第81話 俺は行く。何をしてでもそれが最優先だ

 なんか好き放題言ってくれているな。人間の姿をした怪物モンスターか……まあ間違っちゃいない。


「秘宝……これか」


 いや、取られるわけにはいかないな。

 準備の時間も十分にあった。残念ながら今はこの状態だが、必ず事情を話す。それと同時に、今の態度に関しても聞かないといけないだろう。

 少なくとも、あの言葉はそのままの意味で使ったと思われるのだから。


 残っていた床が崩落する。もう全部を完全に壊してあったんだ。

 そして空中でセポナをキャッチした時には、もう俺の頭部は戻っていた。


「ど、どうなっているんですか!?」


「俺の本体をこの世界から外していたんだよ。あそこにあったのは抜け殻の様なものだ。今は戻したけどな」


「どんどん人間離れしていきますね」


「ダークネスさんもそう言っていただろ。この事はひたちさんには内緒だぞ」


 この世界の俺を完全に外す。ダークネスさんの話から考えれば、そこで全てが終了。もう戻って来られない可能性もあった。

 でも何となく出来るように感じたのだから結果オーライとしよう。

 多分だが、スキルのレベルとやらが上がった結果だ。だけどその分、危険も上がったんだろうな。


 床は一階層まですべて破壊した。当然龍平りゅうへいも一緒に落ちている。

 今は身動きが取れないだろうが、果たして逃げ切れるのか?


 だがその心配は杞憂に終わった。龍平りゅうへいはいなかったのだ。

 それと同時に、気を失っていた少女もいない。

 あの状況で、俺を仕留めるよりも優先したのか……なら、まだ話し合う余地はあるのかもしれない。

 なんて先の話は後だな。

 幸い髪留めの通信機も壊れずに残っている。これはラッキー。


「ひたちさん、これから下まで落ちます。セポナを渡しますので、先に迷宮に戻っていてください」


「それは難しいかもしれません」


 聞こえて来たのは、沈痛な声。


「既に大勢の兵士がこちらに向かっています。召喚者の方々も、動ける人間は全員来るでしょう。残念ながら騒ぎになってしまった時点で……ですがこの命に代えても」


「その心配は無用だ。どちらかといえば、俺がまだこの世にある事を祈っていてくれ」


「何をするつもりですか!?」


 言うまでもない。地上と迷宮ダンジョンは全く別の空間じゃない。

 基本は固定されたセーフゾーンと必ず繋がっているが、別の場所にも繋がる事はもう聞いたし確認済みだ。

 それに生半可な覚悟では、ここでは生き残れない事も十分わかった。時間をおけば、龍平りゅうへいは俺を追ってくる。

 今はまず、ひたちさんとセポナを逃がす事が最優先だ。


 壊せ――壊せ――壊せ――。床の構造を崩れる端から外していく。相当量の瓦礫が一緒に崩れて落ちるが、ひたちさんの周辺は外してある。


 落下と同時に衝撃を外し、目の前で茫然としていたひたちさんにセポナを渡す。


「水があるから」


 時間が無い。それだけ伝えると同時に床を迷宮ダンジョンまで一気に砂のように崩す。

 ひたちさんたちは、まるで砂時計の上に置いたオブジェの様だ。崩れる床の上に乗ったまま、まるでエレベーターに乗っているかのように暗闇へと消えていった。


 高さは100メートル程だが、穴の直径は2メートルもない。

 緩やかな落下速度と下が水という事を考えれば、ひたちさんならセポナを抱えていても大丈夫だろう。


 そして同時に建物外壁の基部4カ所を全て崩す。

 壁までは結構距離があるが、迷宮ダンジョンまで100メートル掘る事に比べれば造作もない。

 そして一度崩れた壁は自重で滑るように崩壊をはじめ、その衝撃で内部もまた崩壊する。

 小さな穴など、大きな瓦礫が簡単に塞ぐだろう。これで下の二人は大丈夫だ。


 さて……。

 崩れていく高さ数千メートルの超巨大建造物。その衝撃は周囲の建物も巻き込み、大量の瓦礫と轟音、悲鳴、吹き飛ばされる人間、更には火災を巻き起こしながら周辺を飲み込んでいった。

 その中を一人走る。二人と一緒に行くわけにはいかない。俺には俺で、やる事があるんだ。

 だけど頭の中で、さっきの龍平りゅうへいの言葉が何度も繰り返し響いている。


「死ね、か……」


 それでも、ここまで来て引き返すという選択肢はなかった。

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