第79話 強化されたって何も分からないよ
塔が粉々に砕け散ると、女神官の絶叫が部屋全体に響き渡る。
「な、何と言う事を……何と言う事をー! あああああああー! 我々の財産が! 国家の権威が! 悪魔! 人でなし! うわあああああ!」
心の底にチョッピり芽生えた罪悪感。だけど今はそれどころじゃない。
《避けられない死が確定しました。“ハズレ”ます》
ああ、懐かしいな、このアナウンス。
気が付くと、俺の立ち位置が1メートルほど移動していた。
そういえば前にもこんなパターンがあったな。
あの時は、確か矢だった気がする。すると飛び道具系だろうか?
《避けられない死が確定しました。“ハズレ”ます》
な――!?
どうやら考えている余裕はなさそうだ。
何に攻撃されている?
彼女は瓦礫の下から神官を抱えてここまでやってきた。
移動? 飛行? いやいや、結び付けても仕方がない。スキルは一人一つと言われたが、この世界にはアイテムっていう便利なものがある。
それにスキルも応用によっては別の効果をもたらすかもしれない。俺のスキルなんかがまさにそうだろう。仕組みが分からない人間にとっては、幾つものスキルを使っているように見えるだろうからな。
それにしても、武器は持っていない。何かが飛んでくる様子もない。何処かが壊れた気配もない。
ただ俺だけを殺すスキル……全く予想が付かない。可能性は無限だろう。
「悪いな、警告は無しだ。恨むなよ!」
俺の後ろにはセポナがいる。
建物の下にはひたちさんがいる。
これが終わったら、
そして一緒に考えるんだ。帰るための方法を。
《避けられない死が確定しました。“ハズレ”ます》
勢いがついていた分、転がる様に無理矢理避けた。ルートを外したといった方が良いか。とはいえ、全速で膝が床に激突する。
叫びそうになるくらい痛い。悶絶してゴロゴロと転がってしまいそうだ。
だけど
「これは驚きね。これでもやり方次第では10人の方々にも勝てるかもしれないと褒められたのよ」
「そりゃ凄いな。案外、そいつらは意外と弱いんじゃないのか?」
「戯言を!」
武器は持っていない。その場から動きもしない。だけど確実に何かをした。スキルが発動しっぱなしって事がその証拠だ。
何より、避けなきゃあのアナウンスが聞こえるしな。
そういえば、最後に聞いたのはいつだったか……そうだ、頭に穴が開いた時だ。
いや違うか、あの前だな。ついでにスキルが強化されて後か何とか……まあその後もぼこぼこにやられたわけだが。
だけどあれでも死ななかったのに、今は連続で死がやって来る。どういう事だ?
なんて推理は後だな。今は目の前にいる子を倒さないといけない。
倒す? 高校生くらいのこの女の子を? 我ながら――変わってしまったな。
一気に距離を詰め横薙ぎに切り払う。しかし浅い。
お腹に一条の赤い筋が浮かぶと、そこからぷくぷくと玉のようになった血が出てくる。
だけど皮膚を切っただけで致命傷には程遠い。
でも彼女はもう知っている。今死んだら終わりであることを。
今この時点で、ここはゲームの世界から現実になったのだ。素直に逃げてくれることを期待したい。
……とか思ったら、いつの間にか女神官がいないぞ?
しまった! 塔が壊れて錯乱していたからそのままなんだろうと思っていた。
だけど今いないって事は、理由は一つ。兵士を連れてくるか、それとも召喚者。あるいは両方か? とにかく援軍確定ってとこか。これ以上の時間は掛けられない。
「事情は後で話す。ここは素直に退いてくれないか? そちらだってこんな所で死にたくは――」
《避けられない死が確定しました。“ハズレ”ます》
だ―、くそが! こいつはバーサーカーか!
今はスキルのおかげで助かったが、やはり戦いの最中に話しかけるとか無謀すぎるな。
相手が言葉に反応して止まるような奴じゃなければ通じやしない。
《パンパカパーン。おめでとうございます。スキルが強化されました》
あー、これも来たか。何か強化される度に出るのかね。
しかしマニュアルが無いから、具体的な事はさっぱり分からない。
それにしても、地上の10人ってのはこいつよりも強いのか?
たまったものじゃないな。勝てる自信がまるで浮かばない。
だけど当面は、目の前のこいつをどうにかしないといけない訳だ。
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