第70話 反省は全てが終わってからだ

 予想した通り、現地語はペラペラだ。こんな異国の地で、通訳が要らないってうらやましい。

 早くもセポナが恋しくなるが、あの時の二人も普通に話していたものな。俺もちゃんとしなくちゃだ。


 買って来たのは2袋。そのうち一つを俺に渡してくれた。

 てっきり一緒に食べるのかと思ったのだが――、


「俺はこれから用事でね。じゃあな。練習頑張れよ」


「あ、ありがとうございます」


 互いに軽く挨拶をすると、彼は悠々と去っていった。

 それよりも、袋の中の焼き鳥の香りが胃袋を刺激する。ああ、何か月ぶりのまともな食事なんだろう。

 食事をして感動するなど本当に久しぶりだ。

 だけど、それ以外の事もちゃんと考えていた。

 名乗りもしなければ聞きもしない。その意味が分からない程の朴念仁ではないつもりだ。

 敵なのか味方なのかは、まだ分からないけどな。





 袋に入っていた焼き鳥は6本。俺の世界のよりだいぶ大きく腹に溜まる。それに何より美味だった。

 全部食べてしまったが、まあ今更これをお土産にしても仕方ないだろう。奈々ななたちは普通の食事をしているのだろうからな。

 そんな訳で、包み紙を丸めてポケットに入れる。出発してから大体3時間ほど。まだ行程の半分ほどだ。

 今回は特に問題無くてセーフだったが、極力トラブルは避けたいところだ――が、


成瀬なるせ様、少々よろしいでしょうか?』


 いきなり通信機からひたちさんの声が聞こえてきた。嫌な予感しかしないが、聞かないわけにはいかないわけで……。


「ひたちさんか。どうした?」


「セポナ様が当局に連行されました」


 あ、なんだ。意外と問題無かった。

 理想としては全部終わるまでは無事である事を願いたかったが、セポナが捕まる事は想定済みだ。

 知っている事も全部話していいと伝えてある。そのために出口も変えたわけよ。

 まあ仮に彼女の言葉を信じなかったとしても、この世界には奴隷契約という俺の世界には無い最強の嘘発見器がある。

 そんな世界で誤魔化しは利かない。つまりは拷問とかの荒事も無いって事だ。


 つまりは普通に捕まって普通に会話して、知っている事は全部話して終わり。

 予想より早かった点は面倒だが、どうせ俺が地上に出れば奈々なな瑞樹みずき先輩たちの所へ向かう事は分かっているだろう。

 その辺りの警戒はされていて当然。むしろセポナが捕まるまで3時間。これは連中が俺の動きを正確につかんでいない証拠でもある。

 先手を取れた事は間違いない。やったぜ。


「了解した。まあ警戒レベルは上がったって事だろう。だけどそれは予想済みだ。このまま奈々ななの所へ行く」


『畏まりました。ご武運を』


 こうして通信は切れた。

 少し強がったが、実際に警戒が高まる事は脅威ではある。それだけ余計な戦闘が発生する可能性があるって事。実際の所、目の前で人殺しをする俺をどう思うだろう?

 ひたちさんには申し訳ないが、かなりスキルを使う事になるが……いや、それも覚悟の上だ。


 しかしアレだね。最初の考えだと普通に地上に戻って、みんなと合流して、スキルを再確認してもらって、それで良いはずだった。

 まあ実際に地下を彷徨さまよった経験からすれば、到底ゲームなんて気楽な世界じゃない。

 でも全員揃っていれば耐えられる。


 だけど実際はそうはいかなかった。地上まではあまりにも遠く、しかもどうやら俺はこの世にいてはいけない人間だったらしい。

 当然ながら、俺が目覚めたあの場所は、連中にとっては絶対に秘密の場所。それはあの襲撃からも分かる。

 今や俺はお尋ね者だろう。あの女神官ともう一度話をしたかったが、多分その機会は訪れない。ちょっとだけ残念だ。


 そんな事を考えていると、自然と足が止まっていた。

 何かが引っ掛かる。いや、問題点は分かっている。大切なのは、どうしてその考えに至らなかったのかだ。

 目的まで最短距離を取るために、スキルではなく、俺の意識が外してしまっていたのだろうか。


「ひたちさん、セポナの現在位置は何処だ?」


「大神殿――わたくしたちが召喚された場所へ向かっています」


 連中にとって、俺は絶対に消さなければいけない存在。奴等の安定したシステムを破壊するイレギュラー、癌細胞みたいなものだ。死者が送られる場所も、仕組みも見てしまった。

 それを知ってしまったセポナを放置するか?

 俺は馬鹿なのか? するわけが無いだろう。

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