第52話 こうしている間にも世界は動いている

「当日に帰還した成瀬なるせ様に、わたくし達は何の関心もございませんでした」


「そりゃそうだろう。ハズレ、スキルなし。即日にお帰りだ。注目されていたらその方が怖い」


「ですがその日から1か月と少しして、わたくし達の仲間が成瀬なるせ様の反応を感知いたしました。当時のわたくしたちの衝撃の凄さをお分かりになりますか?」


 ……1か月。にわかには信じられないが、聞いてもあまり意味は無いな。

 ここは流しておこう。


「すまない。そこまでこの世界のことを理解していないんだ」


「ふふ、クイズなどではありません。言い方が悪かったですね。ただわたくしたちは、真実に辿り着くための必要なヒントの一つを見つけたのです。この世界で死んだら本当に帰ることが出来るのか? そこへ至る、無数の仮説の一つと言うべきでしょうか」


 そうか……そうだな、当たり前だ。

 ここで死ぬと、光に包まれて消える事はわかった。見たところ、苦痛もなさそうだったな。

 俺以外の人間は、それしか知らなかった。体は消え、現実に戻る。何の疑問も持たない人間の方が多いだろう。

 だけどそれを調べようとしている者たちが、俺以外にもいた。

 ある意味当然だ。賭かっているのは命なのだから。


 この世界で死んだら元の世界に戻る。何事もなかったかのように。

 それが、この世界で最初に受けた説明だった。

 そして何やら宝を手に入れたら、力を一部継承して帰還できる。そうやって成功した人間が沢山いる……だったな。


「この世界から帰った人間の反応が迷宮内に存在する。それも一か月以上が経って。平八へいはち様など、それはもう直ちに行くと言って聞かなかったものです。ですがその時は別件の問題もありましたし、何より手の打ちようが無かったと記憶しております」


「俺みたいな例は、やっぱり珍しい事なのか?」


「初めてのケースと断言してよろしいかと……。ただ成瀬なるせ様の存在自体は特定できたのですが、座標を示す要素がございませんでした。この迷宮内――と言うだけでは、まるで雲をつかむような話です」


 まあ確かにそれは無理だ。迷宮の事を聞けば聞くほど不可能に思えてくる。

 全容の見えない広さ。大変動による構造変化。それに伴って、モンスターも変わるんだったか。

 と言うか、存在は感じても場所の特定はできない。そう言ったスキル持ちがいるのか。

 話しぶりからして、ひたちさんでは無いな。


「そういえば、ひたちさんはゲームで遊んだりはします?」


「え? ええ、一通り有名なところは」


「例えば最初の町周辺はレベルアップ用の雑魚ばかりで、奥に行く毎にモンスターが強くなるとか、モンスターが強くなると得られる宝も良くなるとか、そういったゲーム的な法則はあるんですか?」


「そうですね……全くありません。ゲームのような世界と最初に言われたこと自体が、ある意味一つの罠ともいえるでしょう。一応はその点に関しての講習を受けますが、結局肌で体感するまで何の実感もわかないのです」


 即日帰った俺は受けちゃいないがな……。


「変動からしばらくは、召喚者達によるモンスター退治が始まります。ですがその強弱はバラバラです。滅多に出現しないような強力なモンスターに、いきなり10人以上の召喚者が帰された――いえ、殺された事もあると聞いております」


「まだ確実に死んだとは断言したくは無いけどね」


「そう……ですね」


 ここには俺が倒した二人の他、更に二人の遺体があった。合計4人。

 その内1人は全く知らないが、もう一人はそれとなく見覚えがある。俺の記憶が確かなら、同じ日に召喚された同じ学校のやつだ。

 もう、あの日のメンバーがこんな状況になっている、

 ひたちさんの話だと、ゲーム的な法則は通用しない。そしてもう死者が出始めている。大型のモンスターが登場しているってわけだ。上はどうなっているんだろう?

 心配が募ってしょうがない。早く奈々なな達に会いたい。

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