199話 人界生活その4
《魔界》に出る前に挨拶回りしにいって以来か。……そう考えると日数的にはそこまで久しぶりじゃないんだが、間にあったイベントが濃密すぎて遥か前のように思えてしまう。
「ちょっと、ユヴォーシュ。呆けてないで紹介しなさい。こちらの方は?」
「あ、ああ。彼女はジグレード、探窟家だ」
「……一応、今は傭兵ということになっている。ディゴールの《冥窟》はもうないからな。そうやって稼いでいかないと」
「そうか、そりゃそうだな。で、こちらはヒウィラ。俺の遠縁でな、頼って訪ねて来たんだ」
という話になっている。
より具体的には、俺の父方の遠縁で、家の不幸があったので身元引受人として俺を頼って来た、というカバーストーリーを話し合って決めた。そうでもしないと、俺が《魔界》から連れ帰って来たって話が広まればそこから疑われてしまうから。身内の不幸を理由に据えることでそれ以上の深掘りを回避するテクニックも織り交ぜて、これで行こうと結論付けた。
この話を共有しているのは俺とヒウィラ、バスティ、カストラス(覚えているかは怪しいが、一応伝えておいた)。同行した神聖騎士たちはロジェスの「知らん。どうでもいい」という一言以外どう思っているのか分からない。あのグループのリーダーは彼だろうから独断で排除しようとするやつはいないと思うけど……。
「よろしく、ジグレード。ユヴォーシュが迷惑をかけたでしょう」
「いや、そんなことは……。彼には幾度も助けられた」
「そこまで言われることはしてない。まあ、お互い仲良くしてやってくれ」
言ってみはしたものの、これは厳しいかなと直観する。ヒウィラは警戒態勢を解こうとしないし、ジグレードもヒウィラとの距離感を測りあぐねているように見える。結局二人はその後もろくに言葉を交わすことはなく、俺はジグレードの近況を確認するだけするとそのまま別れることとなった。
「……ヒウィラ、どうしてあんな態度取ったんだ」
「あんな態度、って? 私は普段通りの態度を取りました。それが咎められるの?」
「……そういう訳じゃない。ヒウィラがそうしたいなら別にいいけど……俺は言ったとおり、ヒウィラに仲良くしてほしい。角を立てず生きろってことじゃなく、そうすることでヒウィラが『《
気恥ずかしいけど、はっきりと思っていることを口に出しておく。言わずとも伝わるなんてことは期待すべきじゃないから。
ただでさえ環境が変わって不安になっているであろう彼女に無茶を言っている自覚はあれど、唆してこういう状況を作り上げた身として、幸せを願っている存在がいるということは知っておいて欲しかったから。……とまでは、さすがにストレートに言えるもんじゃないけれど。
果たして、彼女は、
「……まあ、考慮はしておきます」
ふいとそっぽを向いた頬が朱に染まっている。カストラスの、流石の技術力だ。
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