143話 遣魔使節その6
その後の話は、半分も入ってこなかった。
どうせ魔王アムラの言葉の半分以上は自賛のための修飾だろうから、聞き流すくらいでちょうど良いのだろうが。
話が終わった後、俺たちの側で要約すると、こういうことらしかった。
───《魔界》は二つ存在する、というのは《人界》でも掴んでいる情報だ。
片方が《魔界》アディケード、俺たちの訪れた此処。
もう一方は《魔界》インスラ。
《人界》ヤヌルヴィスと二つの《魔界》は《経》で繋がっている。それぞれはそれぞれとだけ繋がる閉じた三角関係を構築していたのだが、《神々の婚姻》によって隣接する《人界》ヤヌルヴィスと《人界》ラーミラトリーが合一した結果、他の界と《魔界》に接点が出来ることになったのだが、まあ、それは今は関係ないことだった。
二つある《魔界》、どちらにも複数の魔王が存在し、国土や人民を奪う争いを続けながら治めていた───のだが。
《魔界》インスラにて、ある魔王が他のすべての魔王を滅ぼし、《魔界》を統一してしまった。
大魔王の誕生である。
これに困ったのは、《魔界》アディケードの諸魔王たち。というのも、統一を果たした《魔界》インスラが、次なる領土拡大を《魔界》アディケードに求めれば、《魔界》まるごと一つを敵に回すのと同義だからだ。《魔界》インスラ内での勢力争いがなくなって、総力を注ぎ込まれれば相手にならないと見た《魔界》アディケードの諸魔王たちは、次々に大魔王へと恭順の姿勢をとった。
カヴラウ王朝もその一つ。
大魔王は諸魔王たちに、恭順の証として姫を差し出すよう命じた。人質としての意味よりも、子を成すことで血縁を取り込み、《魔界》アディケードの諸王朝を継ぐ正統性を得るのが主目的という話だ。従わなければ、《魔界》一個分の軍事力による侵略戦争が始まる。
魔王アムラは、第三姫ヒウィラを差し出すことを決定した。───ところが。
カヴラウ王朝の隣国であるキキルックス王朝が、絶妙に最悪の一手を打ってきたのである。突如として侵攻してきた彼らは、ある土地を占領してしまった。
《魔界》インスラと通ずる、国内唯一の安定《経》がある土地だ。普段ならばゆっくり取り返せばいいが、今だけはそうはいかない。その安定《経》がなければ、ヒウィラを大魔王へ嫁がせることが出来ないのだ。キキルックス王朝の狙いもそれで、大魔王の怒りの矛先をカヴラウ王朝へと向けさせるために安定《経》を奪い取ったのである。
ほとほと弱り果てていたところに、《真龍》───《瞬く星》のアセアリオによる悪足掻き、《人界》と《魔界》アディケード間の安定《経》が開通した。
魔王アムラ(または彼の臣下の誰か)が閃いた。そうだ、これを使えばいい、と。
《魔界》アディケードから直に《魔界》インスラへ向かう道は閉ざされている。ならば《人界》ヤヌルヴィスを経由すれば良い。これは《人界》にも悪い話ではなく、我がカヴラウ王朝へ恩を売ることにもなるし、《魔界》インスラの大魔王もその助力を讃え、感謝するだろう。魔王アムラはそう語ったが、果たしてどこまで本当かは怪しい。
つまるところ、《人界》をバージンロードにしたいから手伝え、という話らしかった。
そんな奇妙奇天烈な提案のためにはるばる《魔界》まで呼びつけられたのか、とゲンナリできていたうちはまだマシだった。なんとロジェス、この提案を受けるという!
「本気か!?」
「無論、本気だ。異論は認めない。俺の決定は信庁の決定だと思え」
全権を委任したディレヒトは狂ってるんじゃないかと心配になった。つまりロジェスは、ヒウィラの護衛をいいことに大魔王に近づく目算なのだ。こいつ、矛先を魔王から大魔王へと変える気か!
おぞましいことに、彼の一声に逆らえるものは絶無だった。彼より強い者も、彼より偉い者もいないのだから当然だが、そんな決定を認められるはずもない。このまま話を進めさせてはいけない。
しかし、どうやったもんか……。
俺は夜を待つことにした。
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