105話 禁書捜索その9
「そういうわけで、クァリミンが止めても俺たちは向かう。できれば正確な位置を教えて欲しいけど、無理にとは言わない」
「……いいえ。私もクィエイクに会いたいから、行くなら同行するわ。ただ、危険は承知しておいて」
重ね重ね忠告してくる彼女に、俺はふと違和感を覚える。
俺は今まで、生粋の妖属と会ったことがない。一番の最接近は半人半妖のジニアくらいのもので、あとは噂ばっかりだ。独特の感性で話が合わないとか、時間感覚や金銭感覚が人と違うとか、そういう浮世離れした存在として語られているものばかりだ。
ステロタイプの妖属なら、「行きたいなら行けば?」くらい言ってどうなろうと我関せずでいそうなものだが。
「意外?」
顔にそう書いてあったらしい。クァリミンがそう問うてくること自体、勝手な言い分だがイメージと違う。ヒトの顔色をうかがい、心配すらしてみせる妖属。
「失礼だけど、そう思う。俺たちにあれこれ教えてくれたことも、あれ、盗まれないよう注意しに来てくれたんだろ?」
「そうね。演技だとは思わなかったから」
《掌握神域》を見せびらかして《幻魔怪盗》をおびき寄せようという作戦は、彼女の証言でその正体が判明したことで不要となった。……彼女が、そんなふうにこれ見よがしに自慢していると《
彼女からしても、《掌握神域》は《幻妖怪盗》が盗みに来そうな、美味しい餌に見えたわけで。
そんな忠告をすれば俺たちがその餌を引っ込めてしまう可能性が高くてもあえて言った理由は、ならば善意に他なるまい。
「貴方が妖属にどんなイメージを持っているか知らないけれど……私は、妖属の中では変わり者の部類だから」
「そうなのか?」
「貴方が思う妖属らしい妖属は、《
「そういうものか……」
実感はわかないが、納得はできた。それでその話はおしまいになって、後は魔術師についてやら、《冥窟》についてやら、彼女の弟についてやら、聞ける範囲で確認をする流れとなる。
そうして、変わり者のクァリミンが一行に加わった。
赴くは西の果て、魔術師の拠点たるエリオン真奇坑。
……流石にそろそろ、『バズ=ミディクス補記稿』を回収して、シナンシスの義体を造らせて、ニーオからのお使いに決着をつけたい。ディゴールから遠く離れ、あの街がどうなっているか現状で分からない不安が小さな棘となって俺の心に刺さっている。
だから、さあ、とっ捕まえよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます