062話 冥窟攻落その2
《冥窟》の踏破。つまりは、最奥の核を破壊することを意味する。
それは、《人界》において『《真龍》の討伐』『魔王の討伐』『妖精王の祝福』に並んで、勇者として認められる十分条件だ。悲しいかなディゴールの《冥窟》は、突入時に《冥窟》の核を破壊しないと神誓する必要がある。それを無視してまで───神からの寵愛を失ってまで───勇者になろうとする者はいない。
そしてまた、ディゴールのようでない、つまり一般に認知されていない《冥窟》───主に人目を避けて研究に没頭したい魔術師によるものが多い───は、踏破しても勇者として認定されることはない。
一定の規模と、そして被害報告があってようやく、信庁による《冥窟》認定が下される。そのころには一発当てて人生逆転を狙う冒険者たちが集まってきていて、そして相互に協力したりしなかったりしながら奥へ奥へと潜っていく。そうして人が集まっていくと互助組織が形成され、不可侵が約され、……ディゴールのようになる。
《冥窟》踏破は勇者の条件である。これは事実。
だが、それが達成されるかと問われれば、それはまた別の話なのだ。
◇◇◇
ディゴール《冥窟》は、自然洞窟である。
探窟都市ディゴールの周辺は基本的に平地だが、見晴らしのいい風景の途中にぽつんと丘が目に付く。そこに口を開けているのが《冥窟》だ。探窟家たちは小さな村のような前線基地までえっちらおっちらと歩いていき、そこから先はえっちらおっちら潜っていく。
総勢二十人の俺たち一行は、事前に都市政庁と冒険者組合の方で済ませておいてもらったおかげで面倒な確認の類をフリーパス、大手を振って入れてもらえることとなった。
「普通は潜るにももっと手間なんですよ」
とは、同行する冒険者の一人の言葉だ。
ありがたいことだ。
こちらです、と通されたのは公会堂のような建物。大きな正面扉を開いて踏み入ると、建物の奥にもう一つ扉がある。あれが《冥窟》と《人界》とを仕切る扉と思うと、もう少し贅沢にすればいいものをと思ってしまうのはどういうサガか。吹き抜け二階にはあれやこれやごちゃごちゃと紙が貼ってある板があったり、人はいないけれど受付らしき席があったり、平時はここが最前線なのだと如実に感じられて、俺好みだ。
できれば見学したいが、同行者たちにも悪いし、俺自身早く《冥窟》が見たい。真っすぐ奥扉まで進むと、両開きのそれを両手で押し開く。
開いた先の洞窟は、人の手が入っていながら異界と分かるそれで。
俺の背後から軽い足音が横に並ぶ。バスティも好奇心をそそられたのだろう。
だから俺たちは、せーのと言うこともなしに、同時に第一歩を踏み出した。
「あっ」
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