第198話  ギルドから追放された実は究極の治癒魔法使い。それに気付いたギルドが崩壊仕掛かってるが、もう知らん……そう思ってた。

「おのれ、愚かな人間ども! これでも喰らえ!」


 魔王の腹にある裂けた口から、黒い波動が噴き出した。

 それは幻影の街を飲み込み、周囲を暗黒に包んだ。


「皆、どこに行ったんだ!」


 真っ暗な中を僕はさまよった。

 闇の中を、炎が爆ぜる音や、剣が肉を切る音が聞こえる。

 皆、戦っているんだ。


「皆、僕も戦う」


 だけど、皆の姿が見えない。

 魔王の姿も見えない。

 魔王が支配する闇の中で、誰もが苦戦しているに違いない。


<ユウタ……聞こえるか?>

「あ、ネスコ!」

<久しぶりだな>

「どこに行ってたの?」

<それはな……>


 猫人間のギルドマスターがその長いひげをいじっている様が脳裏に浮かぶ。


<別のゲームにちょっとな>

「別のゲーム?」


 こんな時に僕をからかわないでくれよ。


<そんなことより、ユウタ。お前、自分のステータスを見てみろ>


 相変わらず、ネスコは飄々としてるなあ。


「あ!」


 『永遠の回復補助エターナル・リカバリー・アシスト』が使えるようになっている。


「ネスコ、凄いよ!」

<お前は救世主である前に治癒魔法使いだからな。永遠の回復補助エターナル・リカバリー・アシストが使えなかったのはバグだ。私は運営にお願いして、バグを改修してもらった。難しいバグ対応だったが、どうやら間に合ったようで良かった>


 ありがとう、ネスコ。


「……って、ネスコって何者なの?」

<さぁな、好奇心の塊とでも言っておくか>


 まぁ、ネスコがそう言うならそう言うことにしておこう。


<ユウタ。NPCである私のこのゲームでの役目は終わった。次のゲームで会おう>


 僕は暗闇に向かって目を凝らした。

 すると、視界がクリアになった。

 バトルアクスを振り回し魔王を切り裂くタイチ。

 雷撃で魔王を足止めするセイラ。

 炎の魔法で魔王の身体を焼き尽くすモモ。

 手裏剣の連弾で魔王を壁に貼り付けにするリンネ。


「皆……」


<お前は救世主である前に治癒魔法使い>


 ネスコの言葉が脳内に響いた。

 

 ギルドから追放された実は究極の治癒魔法使い。

 それに気付いたギルドが崩壊仕掛かってるが、もう知らん。

 そう思っていた。

 だけど、僕はこうして元の場所に戻って来た。


「永遠の回復補助エターナル・リカバリー・アシスト!」


 僕は皆に向かってそう唱えた。


「なっ……、何故、死なん!?」


 魔王が驚いている。

 そりゃそうだ。

 僕が無敵になる魔法を掛けたのだから。

 これで誰も死なない。

 HPが1から減ることは無い。

 

「ユウタ」


 リンネが僕の横を通り過ぎる時、こう言った。


「好きだ」


 リンネは、クナイと小太刀の二刀流で魔王の口の中に飛び込み、その背中から飛び出した。


 魔王は死んだ。


つづく

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