第167話 本当に帰れるの?

 僕は11段目の水がめ座の段で、皆と合流した。


「ユウタ、もう戻ってこないと思ったぞ!」


 マリアンが僕の手を力強く握りしめ、喜ぶ。


「ユウタさん、私、安心しました」


 ガイアは僕の側まで来ると、僕の肩に小さな頭を傾けた。


「ちょっと、フィナのユウタに何するの!」


 フィナがマリアンとガイアを僕に近づけまいと、ヒノキの棒を振り回す。


「よくやるよ。まったく」


 少し離れたところにいるリンネのつぶやきが聞こえて来た。


「皆、聞いてくれ!」


 僕は皆を見渡した。

 同時にステータスも確認する。

 HP、MPともそれ程減少していなかった。


「これからは、なるべくモンスターを倒さずに進もう!」

「何故だ、奴らは敵だぞ」


 マリアンが声を上げる。


「いくら難易度が易しくなったとしても、慎重に行くべきだ。魔王が弱くなったとは思えない。今はHPとMPを温存し最後の戦いに臨むべきだ」


 これは僕なりに考えた嘘ではある。

 モンスターを殺すことで地球ちきゅうの人間が死ぬ。

 皆は真実を知る必要はない。

 これまで殺して来たモンスターのことは仕方がない。

 ならば、少しでも犠牲を減らす。

 倒すべきボスモンスターと魔王のみを倒して進むしかない。


「じゃ、モンスターが現れれば、逃げるということですね」


 ガイアの確認に、僕は大きく頷いた。


「逃げるなんて戦士の恥だな」


 マリアンが不満そうに言う。



 魚座の段に足を踏み入れた。

 ここを攻略すれば、魔王と一騎打ちになる。

 いよいよゲームも終わりだ。


「うわぁ! 綺麗!」


 フィナがテンション高く飛び跳ねる。

 濃い水色の天井と壁。

 床は真っ黒だった。

 天井には光の球が等間隔で設置されていて、真っ黒な床に白い斑点を作っている。

 パーティはボスモンスターが生息するであろう場所を探索する。


「ユウタ」


 リンネが声を掛けて来る。


「今のは嘘だろう」

「え?」


 とぼけたが彼女にはお見通しの様だった。


「アスミから聞いた。モンスターを殺せば地球ちきゅうの人間が死ぬと」

「そうなんだ」

「甘いな。ユウタ。逃げても襲ってくるしつこいモンスターが現れたら私は迷わず殺す」

「リンネ……」

「そして、お前の命を狙うモンスターが現れたら迷わず私は、それを殺す」


 辛いが嬉しい言葉だった。


「ところで、本当に地球ちきゅうに戻れるのか。それが心配だ」


 改めてそう言われてみれば、気になる。

 魔王を倒せば地球ちきゅうに戻れる。

 それは、そうなるであろうという予測でしかなかった。

 そして、それは僕らの希望だった。

 人間としての肉体が地球ちきゅうに残された、レゴラスの様な者達はゲームがクリアされれば戻れるだろう。

 戻る器があるのだから。

 だが、僕らの様なゲームに閉じ込められた人間がゲームの中で作り出した存在は地球ちきゅうに転生できるのだろうか。

 終わりのない旅を続けているころは、それは夢として僕らの気持ちを支えていた。

 だけど、ゲームクリアが目前となった今、それは、本当にそうなるのか? という不安に変わりつつあった。


つづく

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