第163話 罪の意識なく人を殺させること

「モンスターは人間……? それは一体どういうこと?」


 僕は困惑した。

 行く手を邪魔するモンスターはただの敵だと思っていた。

 モンスターは僕らを襲う。

 異形のモンスターを殺しても罪の意識は無かった。


「ユウタは人間は殺したことはあるか?」

「ないよ」


 即答だった。

 だって、本当にないのだから。

 殺したい人間がいなかったと言えば嘘になるが。

 例えば、僕をこき使った奴隷商人、僕を傷付けた初恋の人、タイチやマリアンもそうだ。

 だが実際には手を下してはいない。

 僕なりに我慢したし、同じ人間を殺すことは罪だと思ったからだ。


「普通はそうだろう」


 ネスコは頷いた。


地球ちきゅうでもそれは同じことなんだよ」

「どういうこと?」

地球ちきゅうに住む人間同士、戦争をしているとはいえ、お互い殺し合うのはやはり嫌なものなんだ。だから……日本は、この世界、つまりゲームを通して敵国の人間を殺させるように仕組んだんだ」


 つまり、どういうことだ?

 僕は頭の中で。グルグル色んな情報を掻き混ぜ答えを出そうとした。


「あ!」


 人間にゲームをさせ、モンスターを倒させることが、敵国の人間を殺すことになる?

 ネスコの言っていることはそういうことだ。


「そういうことなんだ」


 ネスコは大きく頷いた。



「リンネ、あなたは真実を話して尚、戦いを止めないか?」


 アスミの確認に、私は無言で頷いた。

 他のメンバーはボスモンスターがドロップした素材集めに勤しんでいる。


「分かった。あなたなら動揺しないだろう」


 アスミは話し始めた。

 魔界プロジェクトが何故、作られたのか。

 何故、無料で配信されたのか。


「ゲームを通して敵であるA国の人間を殺すため」


 アスミはそう言った。

 電子データのモンスターを倒すことによって、地球ちきゅうにいる物理的なA国の人間をどう殺すのか。

 暗殺者の私でも思い付かない。


「例えば……」


 アスミは足元をうろつくスライムを踏み潰した。


「こうすることで、今、地球ちきゅうにいる一人の人間が死んだ」

「ここでモンスターを攻撃すると、地球ちきゅうでも同じようにA国の人間が攻撃されるということか」

「うむ」


 スライムは無残にぺしゃんこになったままだ。

 人間も同じようにぺしゃんこなのだろうか。


「我々、一人一人は地球ちきゅうにおいて、A国に派遣された戦闘用ドローン一体、一体ということだ」

「ドローン?」

「武器を搭載した飛行物体だと思ってくれていい」


 アスミは説明し始めた。

 ゲームのプレイヤーとドローンは紐づけられている。

 プレイヤーがゲームの中で冒険するとドローンも同じように動く。

 プレイヤーとドローンは電波でその行動を補正し合い、連動させている。

 その中でモンスターと遭遇するということは、地球ちきゅうではドローンとA国の人間が遭遇するということだった。

 そして、モンスターを殺すということは……


「すごい技術だな」


 私は感嘆した。

 ゲームという仮想と、戦争という現実を連動させることに。

 そして、プレイヤーに罪の意識なく、敵国の人間を殺させるということに。


つづく

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