第163話 罪の意識なく人を殺させること
「モンスターは人間……? それは一体どういうこと?」
僕は困惑した。
行く手を邪魔するモンスターはただの敵だと思っていた。
モンスターは僕らを襲う。
異形のモンスターを殺しても罪の意識は無かった。
「ユウタは人間は殺したことはあるか?」
「ないよ」
即答だった。
だって、本当にないのだから。
殺したい人間がいなかったと言えば嘘になるが。
例えば、僕をこき使った奴隷商人、僕を傷付けた初恋の人、タイチやマリアンもそうだ。
だが実際には手を下してはいない。
僕なりに我慢したし、同じ人間を殺すことは罪だと思ったからだ。
「普通はそうだろう」
ネスコは頷いた。
「
「どういうこと?」
「
つまり、どういうことだ?
僕は頭の中で。グルグル色んな情報を掻き混ぜ答えを出そうとした。
「あ!」
人間にゲームをさせ、モンスターを倒させることが、敵国の人間を殺すことになる?
ネスコの言っていることはそういうことだ。
「そういうことなんだ」
ネスコは大きく頷いた。
◇
「リンネ、あなたは真実を話して尚、戦いを止めないか?」
アスミの確認に、私は無言で頷いた。
他のメンバーはボスモンスターがドロップした素材集めに勤しんでいる。
「分かった。あなたなら動揺しないだろう」
アスミは話し始めた。
魔界プロジェクトが何故、作られたのか。
何故、無料で配信されたのか。
「ゲームを通して敵であるA国の人間を殺すため」
アスミはそう言った。
電子データのモンスターを倒すことによって、
暗殺者の私でも思い付かない。
「例えば……」
アスミは足元をうろつくスライムを踏み潰した。
「こうすることで、今、
「ここでモンスターを攻撃すると、
「うむ」
スライムは無残にぺしゃんこになったままだ。
人間も同じようにぺしゃんこなのだろうか。
「我々、一人一人は
「ドローン?」
「武器を搭載した飛行物体だと思ってくれていい」
アスミは説明し始めた。
ゲームのプレイヤーとドローンは紐づけられている。
プレイヤーがゲームの中で冒険するとドローンも同じように動く。
プレイヤーとドローンは電波でその行動を補正し合い、連動させている。
その中でモンスターと遭遇するということは、
そして、モンスターを殺すということは……
「すごい技術だな」
私は感嘆した。
ゲームという仮想と、戦争という現実を連動させることに。
そして、プレイヤーに罪の意識なく、敵国の人間を殺させるということに。
つづく
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