第155話 この世界が作られた理由

(アスミ……、アスミよ……)


 私の脳内に通信が届く。

 それはいつもの聞き慣れた声。

 運営側のプロジェクトマネージャー、サトミ・クラウス・善野だ。


「はい」


 私は応答した。


(今回のアップデートで大幅にゲームの難易度が変わった)

「はい。概要を見たので知っています」

(魔界プロジェクトの根幹、つまりモンスターの強さを調整した)

「はい」


 毎回、世界更新アップデートの度に、クラウスから連絡が来る。

 運営側の子孫としてこの世界にいる私は、彼女から運営側の情報を受け取り、それを元にこの世界で振る舞っている。


(具体的に言うとラストダンジョンのボスモンスターが弱体化した)


 地球ちきゅうから私に届くクラウスの声はいつも無機質だった。

 この世界、つまりゲームに最初の世代と呼ばれる人間を閉じ込めたのは彼女であり、それを指図したのは日本という名の国だった。

 日本は私の祖父の故郷である。

 私の祖父は運営側の開発エンジニアだった。

 主に、このゲームの設定とモンスターの動作について、プログラミングを行っていた。

 そんな彼は、運営側の機密情報を漏洩させたとしてこの世界に追放された。

 それは濡れ衣だったと私に語ってくれた。

 真剣に語る彼を見て、私もそう思った。

 運営側は祖父にわざわざ冤罪をかけ、この世界に閉じ込めた。

 要は、運営側として、この世界から地球ちきゅうにいる運営側との橋渡しが必要だったのだろう。

 今でも、祖父の身体は地球ちきゅうにあり、カプセルの中で眠っているのだろう。


 ということで子孫である私は、運営側との通信をこうして今も引き継いでいる。


「……ということは」


 ボスモンスターを弱らせたという意味は……

 考えられることは一つ。


(戦争を早く終わらせろ、ということだ)


つづく

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