第146話 ゲームマスターはこの世界の設定とバグを熟知しているので無双できる

「おい、ユウタ。あれを見て見ろ」


 リンネが祭壇の周りを指差す。

 死体だ。

 鎧が裂けた戦士と、ローブが千切れた妖術師、付与術師、治癒魔法使い。

 妖術師と付与術師は寄り添うように死んでいた。

 ちょっと離れた場所に髪を振り乱し立ったまま死んでいる武闘家。


「モンスターの死体が無い。ということは……」


 リンネの言葉を遮る様に、影が走る。

 その影は背後に控えるアスミのパーティに飛び込んだ。


「ぐぎゃ!」

「ぶわああ!」


 緑の閃光が走る。

 僕らが助けに向かおうとするよりも、アスミのパーティのメンバーが殺される方が早かった。

 パーティメンバーはギルドマスターであるアスミを守るために彼女の身代わりになって死んでいった。

 それは、一切無駄のない迷いのない動きだった。

 まるでアスミを守るために生まれて来たかのような者達だった。

 身代わりが全て死に、盾を失ったアスミに緑に光る剣が振り下ろされる。


「危ない!」


 僕は叫んだ。

 手を伸ばす。

 間に合うか。

 全ての動作がコマ送りの様にゆっくりになる。

 間に合わない。


「剣に精神を乗っ取られた戦士……か。そんな設定があるとは聞いたことがあるが、ここで登場するとはな」


 だが、剣はアスミの頭上数センチで止まっていた。


「……なぜ、動かない!?」


 剣を持ったままのマリアンは困惑していた。

 僕もこの現象が良く分からなかった。


「バグを利用させてもらった」

「は?」

「剣に乗っ取られた戦士は、防具が布の服だけの人間を攻撃しても、ダメージを与えられることは出来ない」


 アスミの装備は布の服とヒノキの棒だけだった。

 ラストダンジョンに入る前はクロスアーマーと銅の剣というまだマシな装備だった。

 いつの間に装備を変えたのだろうか。


「皆、布の服持ってるか?」


 僕は皆に問い掛けた。

 誰もが首を横に振る。

 そりゃそうだ。

 そんな最弱の防具をいつまでも持ち歩いている者はいない。

 だが、アスミだけは持っていた。

 彼女はゲームマスターだ。

 この世界の設定やバグはある程度知っているのかもしれない。


「私を盾にしろ」


 アスミが後方を親指で指し示す。

 皆、彼女の後ろに付く。


「職業がプログラマであるアスミさんはどういう戦い方をするんでしょうか?」


 僕は素朴な疑問をガイアに投げかけた。


「今の様にこの世界の設定やバグを利用した戦い方です」

「……それって」

「運営側ならではの戦い方です」


 アスミが魔王討伐に協力するのは、運営が魔王討伐を急いでいるからだ。


「ちなみに、プログラマという職業は、私達一般人ではなることが出来ません」

「へぇ」

「その職業も彼女が運営側である証拠です」


つづく

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