第124話 僕のエルフは2000歳!

「マリアン、聞いたか? 魔王を倒すには……君の力が必要なんだ」


 僕は彼女の目をしっかりと見た。

 思いが伝われとばかりに。

 だが、彼女はそれがどうしたという感じで僕を見る。


「魔王を倒した後、地球に転生出来るかなんて誰も分からない。HPが0になって死んだ者がどうなったか分からないのと同じ様にな。お前達はそんな不確実なもののために戦ってるんだ」


 確かに。

 どうなるかは誰も分からない。

 マリアンはここにいる全ての者達を睥睨し、口を大きく開く。


「私はただこのゲームという世界でずっと遊んでいたいだけなのだ! それを邪魔する奴は救世主だろうが何だろうが殺す!」


 僕とマリアンは真逆の人間だった。

 これでは、いつまでも平行線だ。

 どうすればいいのか。

 それにしても、怒れば怒るほど、マリアンの妖艶さは増して行った。

 そんな彼女にフィナは優しくこう言った。


「マリアン、ゲームは人間にクリアされるために存在するんだよ。人間にクリアされることでゲームは昇華され、人間は次のゲームを手にし新たな冒険の旅に出るの。だから、魔王を倒した人間はきっとこの世界から地球に転生出来るの。きっと」


 フィナらしくない落ち着いた声、そして物言い。

 救世主を導くのがNPCであるフィナの運命。

 僕の苦難となるものを、僕のために取り除いてくれるのもまた、彼女の運命であり使命なのだ。

 その度に、彼女は僕に様々な顔を見せるのだろう。

 だが、フィナよ。

 この世界の全てを捉えた様な視点で物事を語らないでくれ。

 『人間』だけに限定して話すのだけはやめてくれ。

 君との別れを意識したくない。


「離れろ!」


 マリアンはフィナを突き飛ばした。

 焼けただれた板の床に突っ伏したフィナ。

 彼女のHPはさほど減らなかった。

 手加減したのだろうか。

 マリアンは殺そうと思えばフィナを殺すことが出来る。

 それをしないのは、NPCを殺せば神からペナルティを受けるからだろう。


「フィナ、大丈夫か!」


 僕は思わず彼女に駆け寄った。

 肩に手を貸そうとした時、彼女はユラリと立ち上がった。

 緑色の髪が更に深緑に染まり、瞳が血よりも真っ赤になっている。

 いつもの笑顔が消え、顔面には怒りの表情が張り付いている。

 まるで何かに覚醒したかの様な変貌ぶりだった。


「おい! 若造! 言うことを聞かんか!」


 フィナの甲高い声が、ホール内に響いた。


「フィ、フィナ!?」


 僕はびっくりして、後ずさった。


「若造?」


 マリアンが怪訝そうな顔で訊き返す。


「おお。お前はまだ20にもなってないだろ?」


 フィナはステータスでマリアンの年齢を確認したのだろう。

 しかし、何で今頃になって年の話を?

 僕の驚きに応える様に、耳を天井に向かってピンと尖らせたエルフの王女は低い声でこう言った。


「私は2000歳だ」


 ええ?

 フィナってそんなに年上だったの?

 って、2000歳って……


つづく

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