第122話 誰が犠牲になるのか
僕は迷った。
タイチを取るか、自分の命を取るか。
僕の心の振り子が大きく揺れている。
「ユウタ。お前は救世主なんだろ? ならば、救世主らしく自分を犠牲にしてでも目の前の憐れな子羊を救うべきなんじゃないのか?」
マリアンはほくそ笑み、僕の心を揺さぶってくる。
この女は辺境の狩り場で僕に酷い目にあわされたことを根に持ってるんだ。
そして、僕を殺したがっている。
何故なら、この女はこの世界を……ゲームを終わらせたくないからだ。
「ユウタさん。あなたの命はあなたのものであり、私がどうこう言える立場にはありません。ですが……ここは全体のことをよく考えて決断して下さい」
ガイアが僕の目をしっかりと見て、訴え掛ける。
全体とは、この世界に対して僕が救世主としてどう振る舞うかを指しているのだろう。
「私、個人としてはユウタさんは何があっても生き延びてほしい」
彼女は言葉を震わせ、目を潤ませながらそう言った。
「ユウタ」
次はリンネだ。
「タイチを見捨てろ」
え?
僕は一瞬、耳を疑った。
だが、確かに彼女はそう言った。
彼女の目を見れば分かる。
妹である彼女は兄の命より僕の命を選んだ。
僕は思わずタイチの方を見た。
麻痺していても彼の表情に驚愕の色が浮かんでいるのが分かる。
「赤毛の女よ。お前も卑怯な奴だな。私が泣いてユウタに兄を救ってくれと頼むと思ったか? 残念。私はとうの昔にユウタと戦うと決めたのだ。それがこれから死にゆく兄者のためでもある」
ゲームクリア後、死者の魂は
それを救済と呼ぶ。
ガイアはそう教えてくれた。
つまり、タイチの魂はここで失われたとしても、魔王を倒せば救済される。
リンネはそれを見越して僕に言葉を掛けているんだ。
僕はタイチを救いたい。
一度は裏切られ、恨みを持ったが、今は救わなければと思う。
だけど、僕はここで命を失う訳には行かない。
「ユウタさん、誰かが犠牲にならなければならないのです」
僕の迷いに応える様に、ガイアが囁いた。
「ならば、私が犠牲になります」
「え?」
「ユウタさん、私は自分を犠牲にして、あなたを蘇生させます」
僕がタイチのために命を差し出しても、自己犠牲の蘇生魔法でガイアが僕を蘇らせてくれる。
「ガイアさん……」
「二度は守護者として蘇ることはないでしょう。それ程都合の良い世界では無いはずです」
彼女は僕の手を握り締めた。
「先に
つづく
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