第79話 料理スキルを身に付けた治癒魔法使いは、面倒事を料理で解決する!

 ゴザの上には僕の作った特製の弁当が並べられた。

 ピラニアの照り焼きに、大豆ミートのハンバーガー、荒猪ラフボアの肉のステーキ、塩イチゴのケーキ。


「うわぁ! 美味しそう! ユウタさん料理も得意なんですね!」


 セレスが目を輝かせながら、弁当と僕を交互に見る。


「うん。僕、料理好きだから」


 フィナの料理が下手だから、仕方なく僕が作る様になったとは口が裂けても言えない。

 お陰で料理のスキルは上がる一方だ。


「いただきまーす!」


 手を合わせるや否や、フィナが荒猪ラフボアの肉のステーキにかぶりつく。


「ガイアさん、食べないんですか?」


 僕らの輪に入らず、彼女は一人離れた場所に立っていた。


「あなたたち、不用意すぎます」

「え?」

「こんな時にモンスターに襲われたらどうするんですか?」


 食事の間は武器が装備から外れる。

 当然、攻撃力は落ちるし、攻撃態勢に入るのに時間を要する。

 つまり、無防備に近い。


「まったく、あなたたちは……。ここにいる目的を忘れていませんか?」

「すいません」


 僕は頭を下げた。


「ユウタ、ご飯粒ついてるよ」

「あ、ありがとう」


 フィナが僕の頬に付いた米粒を指でつまみ、自分の口に持っていく。

 その様子を、ガイアが呆れ顔で見ている。


「早く食べなさい。私が張り巡らした結界の効果があるうちに」

「ガイアさん……」


 厳しいけど、なんだかんだ言って、彼女は優しい。

 僕はそう思った。


「ガイアー!」


 僕らに背を向けているガイアに向かって、フィナが走って行く。

 その手にはハンバーガーが。


「ちょっ! 何するんですか!」

「美味しいんだから! ユウタがせっかく作ったんだから食べな!」


 嫌がるガイアにフィナが抱き着き、押し倒す。

 無理やり、口にハンバーガーを突っ込もうとする。

 フィナ、やるなあ。

 レベル90相手に。

 なんて、思ってる場合じゃあない。


「フィナ! やめろ!」

「やだ! 食べるまでやめない!」


 フィナは無理やりハンバーガーをガイアの口元に押し当てようとする。

 ガイアは一向に口を開こうとしないが、鼻をひくひくさせた。

 僕は彼女の喉が鳴るのを聞いた。


「ガイア、ユウタのことが羨ましいんでしょ。だから冷たくするんだよね?」


 ガイアの瞳が一瞬、一回り大きくなる。


「救世主は皆から注目されるし、チヤホヤされるかもしれないからねー」


 ガイアは無表情だった。

 だが、身体は少し震えていた。

 必死に無表情でいるのを努力しているかの様だ。


「だけど、そんなこと関係ないくらいユウタは、これから大変なんだよ! 命懸けで魔王を倒しに行かなきゃならないんだから!」

「うるさい! 私が救」


 何かを叫ぶために、大きく開いたガイアの口にハンバーガーが突っ込まれた。

 咀嚼し、ゴクリと喉を通過。


「……美味しい」


 彼女は確かにそう言った。


つづく

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る