第76話 孤独で寂しきギルドマスター。本当は皆と遊びたい!

 本日、20個目のホブゴブリンの群れを殲滅させた時、僕の脳内に機械的な女性の声が響いた。


「ユウタはレベルが60になりました。1000パラメータを与えます。各種ステータスに好きなように割り振りなさい」


 おなじみのレベルアップを告げる声。

 リンネの言った通りだ。

 レベル60になった僕は各種ステータスに好きなようにパラメータを割り振ることが出来る。


 ステ振りは良く考えてやれ。


 それがリンネの教えだった。

 治癒魔法使いだからMPに多く割くのが妥当だろう。

 だが、攻撃力も強化しておきたい。


「う~ん」


 悩む僕に、ガイアがこうアドバイスしてくれた。


「ユウタさん。MPと防御力に特化すべきです」

「何故です?」

「私達は治癒魔法を行使するだけに、モンスターからの敵愾心ヘイトを煽りがちです。盾役に守られ援護に回るのもパーティの一員としての在り方です。……が、盾役でも防ぎきれないほどのモンスターの群れと戦うこともあります。そんな時、自分の身は自分で守るしかないのです」

「なるほど」


 レベルが90のガイアは、僕なんかより沢山の戦いを経験して来たのだろう。

 その中で、何度もピンチに陥ったはずだ。


 自分の身は自分で守る。


 その言葉には実感がこもっていた。


「こんなもんでどうでしょうか?」

「よろしい」


 ガイアは僕のステータスを見て、小さな顎を上下させた。



 その日だけで僕のレベルは70にまで達した。

 自分でも驚きだ。

 ガイアとパワーレベリングに励んだおかげだった。

 だけど、もうクタクタだ。

 HPと疲労は別物だ。

 HPは治癒魔法で回復するが、疲労は休む、寝る、食事をしないと癒えない。(疲労が取れないと、レベル相応の実力を発揮出来ない)

 ガイアは休むことを許さなかった。

 もちろん、食事も抜きだ。

 彼女はまるで何かにとりつかれたようにモンスターを見つけては先制攻撃を仕掛けて行った。

 そのことを、遠く離れたネスコに報告をすると……


<すごいじゃないか、ユウタ>

「だけど、ガイアさんが厳しいんだ」

<耐えるんだ。ユウタ。早く強くなって魔王を倒さなければならない>


「ねー、ねー、ユウタ。ネスコ何て言ってた?」


 フィナが布団の上で寝転がって、僕に訊ねて来る。

 ここはフィナの家だ。

 外はすっかり真っ暗で、ガイアは自分の掘立小屋に帰っていた。

 セレスとウエンディはとっくに眠っていた。


「ガイアさんの言うとおりにしろって」

「やだ~! あんなやつの言う通りとか! もう、しんどい!」


 フィナは布団の上で足をばたつかせた。

 ワンピのスカートがめくりあがりそうになり、目のやり場に困る。


「仕方ないだろ」

「仕方なくない! 私達、いても居なくても一緒みたいな扱いだし」


 フィナは自分が相手にされないことに腹を立てているのだろう。

 確かにガイアはどこか冷たい。

 そして、何か生き急いでる感じがする。

 だけど、うんこ騒動で、フィナとのやり取りの時に見せた表情は柔らかだった。

 あの時のあの表情が本当の彼女の表情で、彼女もそんな表情でいられることを望んでいるじゃないだろうか。


「フィナ」

「何?」

「確かにそうだな。よし。明日は皆でピクニックだ」


つづく

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