第51話 僕はそれでも人間を助けるべきだろうか

聖攻氣ホーリーアタック!」


 荒猪ラフボアが、僕の放った白い光のつぶてを受けて、弾き飛ばされた。

 岩壁にぶち当たり、絶命。

 荒猪ラフボアは猪の肉と牙と爪をドロップした。


「便利だな。これ」


 僕は先程まで振り回していた『魔力の杖』を撫でた。

 この杖は、今日一発目に倒したモンスター、暗黒魔術師ダークマージがドロップした武器だ。

 使って見るとこれが便利だった。

 これを持った状態で魔法を使うと、その効果が1.2倍になる。


「微妙だね」


 それがフィナの感想だった。

 僕は1.2倍でも十分だと思う。

 攻撃魔法も治癒魔法も全て1.2倍だ。

 この差は大きい。

 お陰で、聖攻氣ホーリーアタックを二発当てないと倒せなかったモンスターを、一発で倒せるようになった。

 MPの節約にもなる。


「ユウタ! 前!」


 油断していると、次のモンスターが襲って来た。

 暗黒魔術師ダークマージだ。

 もう再生されていたのか。


大回復ビッグリカバリ!」


 暗黒系やアンデット系のモンスターには、治癒魔法でダメージを与えることが出来る。

 暗黒魔術師ダークマージの黒いローブが白い光でチリチリに焼けて溶けた。


「フィナ、ありがとう」

「うん」


 モンスターは魔王によって召喚され、何者かに倒されることで再生される。

 再生に掛かる時間はモンスターの種類と強さによりまちまちだ。

 これは僕の経験からの推測だが、そのモンスターが強ければ強いほど、再生に時間が掛かる様だ。


 流石、ネスコが言っていた通り、ここは良い狩り場だ。

 モンスターも僕にとっては丁度良い強さだし、金も素材もレアな物をドロップしてくれる。

 モンスターの数が多いのも良い。

 あるモンスターを倒している間に、ちょっと前に倒したモンスターが再生される。

 僕が経験した他の狩り場では、こうはいかなかった。

 酷い狩り場になると、モンスターの数が少なく、数体倒したら再生を待つといったこともあった。

 沢山のパーティが狩り場に殺到し、モンスターを狩るのに順番待ち何てこともあった。

 モンスターは人間の敵であり、倒すべき相手でもある。

 それと同時に、金や素材、アイテムをドロップしてくれる大切な資源リソースでもあった。

 従って、狩り場での人間同士の縄張り争いは、後を絶たなかった。


「ユウタ。見て」


 フィナの指さす先に、人間のパーティがいた。

 ここから10メートルくらい離れている場所、森の近くでモンスターを狩っている。

 メンバーは5人で、戦士が先頭で盾役になり、中間で武闘家と侍が攻撃と防御を担っている様だ。

 後衛で妖術師と治癒魔法使いが詠唱している。

 相手は子供赤竜ミニレッドラゴンだ。

 体長3メートル。

 翼を広げれば横に5メートル。

 ドラゴン種は基本的に強力だ。

 子供とはいえ油断ならない。

 子供赤竜ミニレッドラゴンなら、パーティメンバーの平均レベルが50でないと辛い相手だ。


「大変だ……」


 彼らは僕と同じ十代といったところか。

 レベル不足なのか、狩るというよりも、苦戦しているという様だ。

 盾役の戦士が、子供赤竜ミニレッドラゴンのブレスで吹き飛ばされた。

 吐き出された熱気が僕の方まで伝わる。

 悲鳴が耳に届いた。

 盾役の戦士は死んだ様だ。

 前線が崩壊した。

 バリアを失ったパーティは、子供赤竜ミニレッドラゴンのかぎ爪と牙に蹂躙される。


「ぎゃー!」

「うわー!」


 算を乱し、逃げ惑う。

 もはや、パーティとしての機能は崩壊していた。


「ユウタ……」


 フィナが僕の袖をグッとつかんだ。



「狩り場で人間を見掛けても、決して近寄るんじゃないぞ」



 ネスコの言葉が脳内に響いた。


つづく

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