148. 翔子と別れ
「そっちの次元の境目に近寄らないように!」
えっ!?
「今のはミシャ殿の声か?」
「た、多分!」
「ワフッ!」
自然と足早になって進む智沙さんを追いかける私とヨミ。遅れずについてくる量産型。
目の前に見える部屋の入り口からあかりが漏れていて、その光は多分ディアナさんの光の精霊。
部屋の中で繋がってる!? ということは……
「翔子!」「チョコ!」
その声が同時に響き、声がした方向、左側を向くとチョコだけでなく、ミシャ様たちがスケルトンナイトと戦闘中。
「そっちからも次元の境目に近づかないでください!」
「了解した!」
こちらから見えるチョコたちは微妙に揺らいでいるというか、確かに透明な幕が一枚挟まっているような感じ。
声は普通に通ってるような、そうでないような……。ミシャ様も智沙さんも自然と声が大きくなっている。
「うっ……」
と、部屋の奥から一斉にこちらに向けて寒気のする視線が注がれた。
錆びて赤茶けた鎧は突っ込んできたやつと同じ。さっきと違うのは、兜の目の部分から見える黒ずんだ骨。
「翔子君!」
「はい!」
「ワフッ!」
視線を外さずに突っ込んでくるスケルトンナイトを止めるべく、量産型二体が私の横に並び、ヨミが私に力を与えてくれる。
「撃ちます!」
ガガガガガガッ!
近寄る前に蜂の巣になり、そのまま光の粒となって消えていくスケルトンナイト。六体、いや、七体は倒したはず。
「撃ち方やめ!」
智沙さんの声でトリガーを離すと、消え去った奴らのずっと後ろに見える影。
かつては豪華な衣装だったと思われるそれは、すでにボロボロ。骨だけとなった頭蓋骨の上にはくすんだ王冠……
「あれがアンデッドの首魁のようだが……様子がおかしいな」
なんか部屋の一番奥、次元の境目ギリギリにいて動かない。
「そちらも大丈夫ですか?」
「はい!」
次元の境目の向こうからミシャ様の声がかかる。向こうもスケルトンナイトを殲滅し終えたようだけど……
「そちら側の奥にいるのが旧パルテームの王で、こちら側にいるのが妃です。あの二人で勇者召喚の古代魔導具を暴走させてます」
「どうすればいいんです?」
「この前に渡した魔晶石、持ってますよね?」
「はい、持ってきてます」
埼玉の一件で魔素が無くなった場合にってミシャ様から送られてきた魔晶石。
チョコやマルリーさん、サーラさんのためだったけど、私も智沙さんも一応持っている。
取り出したテニスボールほどの魔晶石には、私の魔素が詰め込まれて白く淡く光っている。
向こうではチョコも同じものを取り出して手に持っている。あの魔素も私の魔素だけど、チョコは私の魔素を取り込めるので問題なし。
「それを翔子ちゃんとチョコちゃんで、同時に投げ込んでください。誤作動してる古代魔法陣にDoSアタックをかけて止めます。その後、悪霊を浄化してください」
え? ド……何? ジェットストリームアタックじゃないよね?
ちょっとよくわからない言葉が出てきたんだけど、ともかく、チョコと同時に魔晶石を放り込めばオッケーってこと?
「もう少し近くまで寄らないと、翔子だと厳しいです」
というようなことをチョコが言ってくれてる模様。はい、その通り。
「大丈夫そうなところまで、慎重に近寄ってください。護衛、お願いします」
「オッケー」
「了解した」
というわけで、両側ともにそろそろと王と妃が動かしている勇者召喚の古代魔法陣に近づいていく。
そして、近づいていって分かったのは、向こうにいる妃が、次元の狭間で王の手をガッチリと掴んでて離さないという……怖い。
どちらも私たちが見えてないっぽい? お互いしか見えてない感じなのは、恋は盲目……って感じにはとても見えないね。
目標まであと三メートルほど。ここなら多分問題ないし、これ以上は何かあった時のことを考えると怖い。
「行けます」
ミシャ様にそう告げると向こうも停止。チョコが細かい位置合わせをしてくれる。
「じゃ、お願いします」
その言葉に私とチョコの目線が合う。
よし、行くよ?
「「せーの!」」
放り込んだ二つの魔石が魔法陣が描かれているプレートに落ちた瞬間、眩い光が溢れてあたりを覆い尽くす。
「「ちょっ!」」
思わず腕で光を遮ろうとすると、智沙さんが私の前に割り込み、さらにその前に量産型が盾となってくれた。
「ギャアァァァ!」
「ギィイィィィ!」
「くっ!」
地響きのような怨嗟の声が聞こえ、バチバチ来る悪意の波動に慌てて聖域を強くする。
一分、いや、三十秒ほどで声と光が消えると、そこにはただの魔法陣だけが残されていた。
「智沙さん、大丈夫ですか!?」
「ああ、大丈夫だ」
「ワフッ!」
膝にすりすりしてくるヨミを抱え上げ、次元の向こうを見ると、チョコたちも問題なさそうで一安心……
ルルさんがこっちを気にして声をかけてくれる。
「そっち大丈夫?」
「大丈夫です。王も妃も浄化するまでもなく消えちゃったんですけど、これで良かったんでしょうか?」
暴走してる魔法を止めてから、悪霊を浄化って話だった気がするんだけど。
「うん、思った以上に翔子ちゃんの加護が強くて、そのまま浄化された感じ。ともかく、時間はまだあるので
「了解です。翔子君、ちょっと行ってくる」
上の階へと神棚を取りに行った智沙さんを見送りつつ、私は菊媛お姉様からもらった勾玉を取り出す。
「もうちょっと待っててくださいね」
思わずそんなことを口走ってしまったところ……
『もう! ピンチになったらかっこよく顕現して手助けしようと思ってたのに!』
目の前にいきなり顕現する菊媛お姉様……
そんな理由でぷんすこされるといろいろと台無しなのでやめてもらっていいですか?
「えーっと……」
『あ、説明はなくて大丈夫! で、あれが今回の原因ね?』
「はい、そうです」
向こうからミシャ様が返事してくれる。
それはいいんだけど、菊媛お姉様はあれをどうするんだろう?
『翔子ちゃん、またそれもらうわね。あんまり女の子が物騒なもの持っちゃダ・メ・よ?』
その言葉とともにふわっと浮き上がる魔導護身銃。
『
呪文? 歌? なんだか楽しそうに指をくるくるまわすと、前と同じようにそれが勾玉へと変化する。
「む、もう始まっていたのか?」
「あ、はい。なんていうか、出待ちしてたみたいで……」
神棚を持って戻ってきた智沙さん。すいません、ちゃんと待つつもりだったんですけど、ご本神が待ちきれないみたいで……
『よし! これ置いたらしばらくは行き来できなくなるからね〜』
「「はい」」
私とチョコが迷わずそう返事をすると、勾玉が魔法陣の真ん中、次元の境目へと着地する。
それだけ? って思ってたら、それを覆うように石が現れ、徐々に徐々に大きく岩へと育っていく。そして……
「「おおー、次元の断層!」」
今までは幕だった境目が岩肌の断層へと変化していく。
「翔子ちゃん! ありがとうね!」
「世話になった!」
「またね!」
手を振るミシャ様たち。
そして……
「翔子、元気でね!」
「うん、チョコも元気でね!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます