132. 翔子とカオスな原因

「ボクはルル! よろしくね!」


 隣の褐色の女性がイメージ通りの挨拶をしてくれる。ボクっ娘……いいね! っていうか、ゼルムさんっぽい肌の色といい、戦槌ウォーハンマーといい……


「どうも、翔子です。えっと、ドワーフの方ですか?」


「うん、そうだよ」


「ゼルムさんとはお知り合いだったり?」


 思わず聞いてみたんだけど、腕を組んでうーんっていう顔をした後にパッと明るい顔になり、


「わかんない」


 とニッコリ。「わからんのかい!」とか謎の関西弁でツッコミそうになる。


「ルル、ゼルム殿たちはウォルースト北の自治区出身であちこちに行ってもらってるドワーフの皆さんだ」


「ん? ああ! あのおっちゃんか!」


 なんか思い出したらしい。よくわかんないけど、ウォルーストの北ってルナリア様のところに行く途中で寄ったとこだっけ。


「改めて久しぶりだな。しばらくよろしく頼む」


 ディアナさんと握手。周りを見ると、それぞれが初対面と挨拶し合ってて、一回りした感じかな?

 私が初めて会うのはミシャ様とルルさんだけだけど、ケイさんとかディオラさんは美琴さんも智沙さんも知らないもんね。


 あれ? そういえばヨミは? と見回すと、ミシャ様の隣にいた狼さんに毛繕いしてもらってご機嫌な模様……


「ああ、ヨミはクロスケの孫娘なので」


「「あ、はい。ええっ!?」」


 毛色が全然違う気がするんだけど……


「さて、ちょっと気が重いけど、ここの下の方の話をしましょうか」


 ミシャ様がスタスタと広いスペースまで歩いて行き、何やらぶつぶつと呟くと……


「「へ?」」


 大きなテーブルがどーん! 椅子がいくつもばーん! ってこれあれだ! ルナリア様に古代魔導具の倉庫で見せてもらった擬似無限収納!


「はいはい、座ってください」


 私やチョコ、美琴さんも智沙さんもポカーンなんだけど、向こうの世界の皆さんは「いつものこと」みたいな感じでさくさくと席に着く。

 おっと、樹洞うろの道を閉じておかないと。ありがとうね。


 特に席次とかない感じだけど、私たちこっち側の世界のメンバーで固まって、向かい側にはミシャ様、ルナリア様とフェリア様。

 白銀の乙女の皆さんは一歩下がったところに固まってる感じ。


「ではさっそく本題に。既に知っていると思いますけど、第十階層を覆い尽くしている混沌空間は徐々にその範囲を拡大しているようです」


「私たちの世界の方もなのかしら?」


「はい。今のところゆっくりですけど、いつ早くなってもおかしくないかなと」


 認識にズレは無し。できるだけ早くなんとかしたいからこそ、ミシャ様たちが来たということかな?


「解決できるものなのでしょうか?」


 と智沙さん。


「原因は分かったので、その原因を取り除けば、少なくとも広がることは無くなるかと思ってます」


「その原因とは?」


「えーっと、簡単に言うと『勇者召喚の古代魔導具を逆転動作させた連中の怨念がずっとそれを動かし続けてる』ですね」


 うわあ……うわあ……


 私とチョコだけでなく、智沙さんも美琴さんも思いっきり引いてます。

 向こうの世界の人たちは割と納得感というか……白銀の乙女の皆さんは黒神教徒とやり合ってきたからかな。


「あなたのことだから、それをどうにかする手段もできてここに来たのでしょう?」


「まあ、一応。でも、こっちの世界に合わせた最終調整は必要なので」


 ということは、あの定点観測してる魔導具もちゃんとデータ取ってるのかな。データが十分集まったらいよいよ、と。


「なるほど、了解した」


「じゃ、さっそく下へ行こう!」


 とルルさんが立ち上がり、皆も腰を上げたところで、


「あ、ルナリア様とフェリア様、白銀の乙女の皆さんは先に帰ってください」


 ミシャ様があっさりと告げる。


「なっ! 我らもその場所を見ておくべきだろうが!」


「そうよ、ミシャ。今さら関係ないとは言わせないわよ」


「そんなつもりはありませんよ。けど、お二人を待ってる人がそろそろ……」


 と白銀の乙女の皆さんに視線を移す。


「さあ、フェリア様、帰りますよ」


「ロゼ様も待ってるよねえ」


 ディオラさんががっしりとフェリア様をキャッチ! サーラさんは一部の隙も見逃さぬ構え! そして、


「ルナリア様。上にシルバリオ様がお迎えに来ております」


「待たせ過ぎると怒られますよー」


 ルナリア様の両サイドをがっちりと固めるマルリーさんとケイさん。こちらもルナリア様を逃さない構え!


「はあ……、しょうがないわね」


「ぐぬぬ……」


 さすがに二人も観念したのか大人しくなる。


「あ、そうそう、二人のおみやげはリュケリオンのロゼお姉様に預けてあるので、途中で拾ってくださいね。遅くなると食べられちゃうかもですよ」


 ミシャ様のその一言で、


「フェリア、急ぎましょう」


「うむ、翔子、すまんが道を頼む!」


 変わり身はやっ! でもまあ、この人数で下にぞろぞろと行くのもアレだし、シルバリオ様もロゼ様も待ってるんだろうし、気が変わらないうちにかな。


「神樹の精霊さん、樹洞うろの道をお願い」


 手をかざしてお願いすると、するすると開いていく樹洞うろ。それを見て、足早に進む二人。切り替え早いなあ。


「では、翔子よ。またの」


「ええ、また来るわね」


 と二人が。そして、


「お世話になりましたー」


「んじゃねえ」


「ごめんなさいね、いろいろと迷惑をかけちゃって」


「ミシャたちを頼む」


 白銀の乙女の皆さんからも一言ずつあって樹洞うろへと消えていく。ふう、これでルナリア様の件は一段落かな?


「みんなが向こうに着いたら、元に戻していいからね」


 神樹の精霊さんにそう伝えて振り向くと、一度は席を立っていたミシャ様たちがまた座り直していた。椅子の数はきっちり減ってるけど。


「どうやら話の続きがありそうだな」


「みたいですね」


 そう言って席に戻る二人だけど、


「こういう時ってだいたい重大な事を伝えられるパターンだよね」


「それそれ。なんか嫌な予感がする……」


 チョコとそんなこそこそ話をしながら席に戻ると、いつの間にやらテーブルの上にはお茶とお茶菓子が用意されている。


「「え?」」


「先ほどミシャ様が」


 あ、ああ、取り出したのね。さすがに時間停止系の無限収納じゃなかったと思うし、シルキーさんに用意してもらって取り出したとかかな?


「あ、ルナリア様もフェリア様も帰ったし、堅苦しいのはなしで。って、ルル、手をつけるの早すぎでしょ」


「えー、だってお腹空いてたし」


「そうだぞ。まずはゆっくりとお茶をいただいてから……熱っ!」


 ……えっと? これから重大なお話があるんです、よね?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る