66. 翔子と魔素の色

「さて、では始めようか」


「ふっふっふ、掛かってきなさい」


「はーい」


 開けて翌日。

 研究所の地下二階、訓練場に来ると、智沙さん、サーラさん、チョコがさっそく手合わせを始めるっぽい。それぞれが壁にある訓練用の木刀を手に取って感触を確かめるようにぶんぶんと。


 私、美琴さん、フェリア様はこの部屋で確かめないといけない事があるので、観戦もそこそこに部屋の奥へと移動する。もちろんヨミも一緒。


「ここじゃないかと思うんですけど」


「ほうほう」


 まずは部屋の右奥。その壁の高いところに四角く通風口っぽいものがある。

 この研究所の魔素が減らないのは、多分、ここから出てきてるんじゃないかなあと。


「ここにある魔素が多くて、減ってるけど誤差とかそういうことではないんですよね?」


「うーん、チョコも私も訓練で身体強化使ってるし、魔法も結構試したんですよね。それでもたいして消費してない感じなのかな」


 確かに美琴さんが言うように、この地下にすごい量の魔素があって、私たちが頑張って消費しても微々たるものだったって可能性もあるのか……


「ふむ。翔子の見立てが正しそうだの。この口より魔素が来ておるようだ」


「ってことは、その先はどうにかして向こうの世界と繋がってるんですか?」


「おそらくな。気にはなるが、これはちょっと開かぬようだの」


 通風口の格子をグッと引っ張るけど……フェリア様の力じゃ動かないよね。

 私がやってみても良いんだけど、壊しちゃうと直せそうにないし、この先いろいろ困ることになりそうだし放置かな……


「こちらに魔素が来てるとなると、溢れて外に出たりしないんでしょうか?」


「あー、それなんだけど、あっち側にもう一つ通風口みたいなのがあってね」


 今度は部屋の左奥。足元にある通風口っぽいもののところに移動する。

 多分、こっちから向こうに行ってるんじゃないかなって。


「なるほどの。翔子よ、ちょっと見ておれ」


 その言葉の後に何かしらの詠唱が行われると、フェリア様の体の周りに青と緑の光の粒子が漂い始め、その魔素が通風口の方へと流れて消えていく。


「ほれ。向こうへ流れておるだろ?」


「おおー、ってこれフェリア様の魔素です?」


「うむ。というか、其方そなたは視覚化の魔法を知らんのか?」


 何それおいしいの? という顔をしたら、呆れられてしまった。

 元素魔法を使えるのに視覚化を知らない魔術士を見たのは初めてだとかどうとか。


「だって、読んだ魔法の本にそんなこと書かれてなかったし……」


「当たり前だ。物語の初めに言葉の読み方を書いておったりはせんだろう」


 だそうです。

 つまり、魔素がある世界では基本中の基本らしく、自分の魔素を色で表してくれるんだとか。


「魔素がない世界なんですから、しょうがないのでは?」


「む、そうであったの。では《視覚化》と唱えてみよ」


 美琴さん、フォローありがとう。ということでさっそく。


《起動》《視覚化》


 おおお!? なんか、赤・緑・青の光の粒子がストライプというかマーブルな感じに……


「あー、魔性石に魔素を入れるときにこんな感じだったけど、あれって見えてたんですね」


「その通りなのだが、其方そなた、我よりも珍しい魔素の持ち主だぞ」


「へ?」


 フェリア様は向こうでも珍しい『二色の魔素』を持つ魔術士らしい。

 なんでも、普通はその二色が混じった色になっていて、妖精族なら青と緑が混ざってできるシアンになるそうだ。


「ということは、翔子さんが三色を別々に持ってるっていうのは、ものすごく珍しいということですか?」


「うむ。少なくとも我は見たことがないの。三色を持つものは混ざれば白になる。そうじゃのう、おお、ヨミよ。ちょっと視覚化をかけてみてくれんか」


 え? ヨミそんなことできるの? って自分で清浄の魔法使ってたっけ。


「ワフン」


 ドヤ顔でそう答えた次の瞬間、ヨミの周りに白い光の粒が漂う。めっちゃかっこいい!


「ルナウルフは生まれながらにして月白げっぱく神の加護を持つ狼。その加護が魔素に清らかな白を与えておるわけだな」


「なるほどー」


「魔術士でないと見れないんでしょうか?」


 美琴さんがテンション高めにそう尋ねる。

 ヨミができたのなら、美琴さんでもできそうな気がなんとなく。


「いや、視覚化の魔法は発動のための道具を必要とせんので、美琴にもできると思うぞ」


「やってみます!」


 さすがというか問題なく成功。美琴さんの色はオレンジ。

 色によって特性があるらしく、赤は身体強化向き、緑は精霊魔法向き、青は元素魔法向きらしい。

 そして、その三色が混じった白でないと神聖魔法が使えないんだとか。


「おーい、サーラ! 智沙もチョコもこっちこーい!」


 フェリア様が各人の魔素の色を見ておいた方が、役割分担がはっきりできて良いとのことで皆を呼ぶ。そして始まる魔素の色判定大会。


「智沙さんは紫ですね」


「ふむ。個人的に好きな色だ」


 と嬉しそうな智沙さん。

 フェリア様曰く、青が混じる色の魔素を持つ人はかなり珍しいらしい。妖精族や翼人よくじん族といった飛べる種族に多いらしいけど、それら種族は絶対数が少ないんだとか。


「サーラさんは白なんですね」


「ちょっと黄色が入ってるけどね。白銀の乙女は全員白なのよ」


 ということで、チョコも白だったので良かった良かった。

 これでチョコが赤とかだったら、白銀の乙女詐欺になるところだったし。


「でも、翔子がストライプというかマーブルで、私が白なのはなんでです?」


「ふむ。それはおそらく……翔子よ。ちょっと魔素で壁を作ってみよ。石壁は作ったことがあるのだろう。その時のようにな」


「わ、わかりました」


 確認するだけだし、小さくて薄いので良いよね。

 魔素で簡単な直方体を作って目の前に壁のように立てると……


「あ、白になった。ああ! 魔晶石の時と同じで体から離れると混ざる?」


「おそらくそうじゃろうな。チョコが翔子から読み取った魔素の情報は、その混ざった物だったゆえに白になったということだろう」


 なるほど。いろいろと腑に落ちずに放置してた件がつながってきたような?

 となると、あの問題は……


「魔導拳銃の威力が想定以上に高いのって、ひょっとして私の魔素って出力が三色分、つまり三倍あるから?」


「うむ。その話は聞いておったのだが、概ねその推測で間違いないであろう。くっくっく、奴も魔素の入力が三系統並行で来るとは思っておらなんだか」


 なんかフェリア様、ニヤニヤしてるんだけど。


「想定外だったようだが暴発しなかったのはなによりだな。普通の拳銃で火薬が三倍になっていたら銃の方が持たない」


 と智沙さん。確かにそれ考えるとゾッとするね……


「この私の魔素って、この色だけ出すっていうコントロールできないですかね? 転移魔法陣の魔晶石に青の魔素を入れたいんですけど……」


「うむ。その件も聞いておる。実物を見つつ、実践しようではないか」


 やった! 実践してくれるのね!

 ……あれ? フェリア様、意外としっかり仕事してる!?

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