60. 翔子とフェリア

 本物の妖精を目にした美琴さんと智沙さんが固まってる。

 いや、まあ、私もチョコも驚いてはいるけど、想像と大きくずれてはないかな。


「ヨミ、離してあげて?」


「すまんの。驚かせるつもりはなかったのだ」


「ワフン」


 解放された妖精、多分、フェリア様がふわっと浮いて、チョコの右肩へととまる。

 そして、


「ほれ、ディアナとマルリーは早よ戻らんと樹洞うろが閉まるぞ」


 しっしと手を振り、帰る予定の二人を追い払う仕草。

 いや、そんな急がなくても大丈夫だと思うんだけど?


「フェリア様ー、ちゃんと準備してきたという証拠を見せてくださいますかー?」


 背景に『ゴゴゴゴゴ』って擬音が見えそうな圧で問いかけるマルリーさん。


「サ、サーラ! あれを頼む」


「はいはい」


 そう言われたサーラさんがバックパックから取り出したのは……丸いお盆?

 その円の中心を持って縦に伸ばすと……木組みの鳥籠のようなものになった。


「この籠は一体?」


「ふふん、まあ見ておれ」


 飛び立ったフェリア様が鳥籠の扉を開けて中に入った瞬間に、その姿が青と緑の鮮やかなインコに変身した。


「「えっ!?」」


 固まっていたのが解けそうだった二人がまた固まってしまった。

 多分、これは魔導具の類だよね?


「はー、これわざわざ作らせたんですかー?」


「つ、作らせたとは心外な! アイデアを出して、ちょっと手伝ってもらっただけだぞ?」


 それって、ネタだけ出してあと全部作らせたってことでは?

 それにしてもよくできてるというか、ちゃんとインコが喋ってるように見えるんだよね。

 なんと言うかこう……


「リアルAR?」


「かな? どの方向から見ても違和感ないのって、立体映像っぽいよね」


「おお、わかるか! さすがよの! 元素魔法による幻影を全方位に射影することで、どの視点から見ても違和感のない虚像結界という新たな魔法を……」


「フェリア様ー?」


 オタク特有の早口が始まったが、マルリーさんがすぐそれを制する。

 で、そろそろ戻り始めないとなんだけど、どうするんだろ?


「わ、わかっておる。大人しくすると誓おう!」


「はあー……。サーラに翔子さん、それに皆さんもー、フェリア様が粗相をしたらすぐに連絡してくださいね。すぐに迎えを寄越しますからー」


「うん、そうするわ……」


 とサーラさんも渋々ながら。どうやら許可が降りたっぽい。

 フェリア様が「我は賢者のはずなのだが?」とかぶつぶつ言ってるけど気にしないでおこう。


「わかりました。まあ、しばらく待機ですし変なことも起きないかと。埼玉の……オークのいるダンジョンの件は進展があったら伝えます」


「すまんな。では、そろそろ時間だ」


「行きましょうかー。ではー、皆さんお元気でー」


 マルリーさんが先にしゃがみ込んで樹洞うろへと入っていく。

 そして、ディアナさんがしゃがみ込み、樹洞うろへと入ろうとしたところで振り返ると、


「では、またな!」


「「ええ、また!」」


 そう答えると、ディアナさんは前を向いた瞬間に樹洞うろの入り口に頭をぶつけ……恥ずかしそうにその先へと消えていった。


「ふう、やっとうるさいのが行ったの」


 鳥籠のインコが歩き、その羽で扉を開けるというシュールな絵面は、それが外に出たところで妖精姿のファンタジーへと変化する。

 パタパタと薄い羽を羽ばたいてチョコの右肩に座ると、改めて自己紹介をしてくれる。


「さて、花の賢者フェリアだ。しばらくの間、よろしく頼むぞ」


「で、私がサーラ。よろしく」


 軽くお疲れモードになっているサーラさん。手に持っている空の鳥籠がちょっと切ない……


「えーっと、私がチョコで、こっちが翔子。美琴さんに智沙さんです」


 チョコが皆を紹介し、それぞれ握手する。

 サーラさんとは普通にだけど、フェリア様とは指先で握手?


「翔子さん、ちょっと……」


 美琴さんに手招きされたので、少し二人して離れる。

 二人の相手はしばらくはチョコがしてくれる、よね。


「どうしました?」


「どうやら会話を聞き取れるようになったみたいです」


「あ、良かった。やっぱり魔素のおかげかな」


 魔素がある場所に潜って、向こうの人の会話を聞いてればってのは、智沙さんの例でわかってたしね。それ以外の何かがあるかもと思ってたけど無さそうね。


「で、ですね。あの鳥籠にいる間は鳥に見えるのはいいんですが、外に出ても大丈夫なんでしょうか?」


「あ、そいやそうだね。ダンジョンの中だけっていう話なら全く意味ないし」


 これは確認を取っておかないとだよね。と振り返ると、チョコと智沙さんとサーラさんでいろいろと話し込んでいるっぽい。


「どうしたの?」


「あ、うん。この下っていうか例の空間が歪んでる場所の説明をね」


 ああ、あれかー。賢者様ならどうにかできるとか?

 あ、いや、今はその話じゃなかった。


「えーっと、フェリア様、ちょっといいです?」


「む、なんだ?」


「その鳥籠って、外に出て魔素が無くても大丈夫なんです?」


「おお、それよ。サーラ、ちょっとそれを翔子に渡してくれ」


 言われたままにサーラさんが鳥籠を渡してくれる。

 えーっと、それで?


「その持ち手のところに魔晶石があるので、そこに魔素を入れてくれ。さっきは我の魔素で起動していたが、外に出るとそうもいかんのでな」


「なるほど。この魔晶石の魔素を使っても動作するんですね。……なんでフェリア様自身で入れないんです?」


「あー、それね。フェリア様ちっちゃいでしょ。出力も小さいから溜まるのおっそいのよ」


「ちっちゃい言うな! 繊細と言え!」


 サーラさんの解説にフェリア様が抗議しているが、ともかく納得はした。

 蔵書部屋にあった魔素の本にも、体躯が小さい種族ほど微細な魔素のコントロールが得意とか書かれてたしね。


「じゃ、私が入れますね」


 サイズ的にはピンポン球よりもちょっと大きいぐらいの魔晶石。左手に鳥籠を持って、右手の人差し指から魔素を注ぐ。

 赤・緑・青のストライプで注がれた魔素は混ざり合って真っ白となって溜まっていく。


「ほほう、其方そなた、なかなか面白い魔素の色をしておるのう……」


「うっ、これって変なんです?」


「変ではないぞ。魔術士としては誰もが羨む才能よ。それに我が頼まれていた調査も早々に解決しそうでなによりだの」


 そう言ってニヤリと笑うフェリア様。

 頼まれていた調査ってなんだろ? カスタマーサポート、『空の賢者』ミシャ様から頼まれてるんだよね?

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