24. 翔子と賢者

「向こうの『白銀の館』からの依頼だったんですか?」


 チョコの通訳にそんな反応をする美琴さん。知らなかったのかな。

 いや、まあ「ダンジョンの部屋に扉をつけてね」みたいなことをいちいち報告してこないか……


「そもそも向こうの『白銀の館』ってどういうことしてるの?」


「私もそれは知らないです。この事件が起きるまでは、ごく稀にある遺品返却と、それ以外は館長と個人的な手紙のやりとりぐらいと聞いていましたが」


 うーん、詳しいこと知ってるのは館長さんだけかな? あとは美琴さんの大叔母さんだっけ?


「扉をつける理由って?」


「ダンジョンに取り込まれる魔物を閉じ込めておくためだと聞いておった」


「ああ、なるほど」


 通路をうろうろしてるよりも、部屋にまとまってる方が対処しやすい……のかな?

 うん、こっちも人数用意してれば、部屋から出てくるのを各個撃破するのが正しそうな気がしてきた。


「要するにダンジョンの整備作業を頼まれてた、と」


「まあ、そういうことだな」


 向こうの世界の『白銀の館』も建設関係の会社なのかな。まさかダンジョンを作ってる?


「扉の設置は他の階層も?」


「ああ、第三階層まで頼まれておったぞ」


 おっと、智沙さんがいいことを聞いてくれた。

 第三階層までってことは、そこまでは地図もありそう。


「えーっと、明日の捜索にゼルムさんも同行してもらえます? それと第二階層、第三階層の地図もあてにしていいです?」


「おう、いいぞ! 地図ももちろん持っておる」


 あら、あっさり。

 でも、これで第二・第三はどうにかなりそうかな?


***


『では、出発する』


 今日は最初から輸送車両で出発だったので一安心。

 美琴さんの運転、上手いんだけどスピードがね……


「翔子、今日は私にも出番ちょうだい」


「臨機応変にかつ柔軟に対処で」


「それダメなやつー」


 私、チョコ、ゼルムさんは後部に乗ってるので今日は検問対策も不要。昨日もこれで良かったのでは説。

 それにしても、ゼルムさんのツナギ姿が異様によく似合ってて面白い。他のドワーフさんたちも同じ六条の作業ツナギを着てて、めっちゃ建設会社の社員っぽかった。


「嬢ちゃんの腰にあるそれは短杖ワンドか?」


「あ、これは……そうですね。魔法を撃つっていう意味では杖かな。でも、こういう感じで狙って撃ちます」


「見せてもらっても良いか?」


 指輪の方がないと誤射もないし良いかな? ドワーフってそっちのプロみたいだし、見てもらうのもいいかもと思い、それを渡す。


「ふむ、魔銀ミスリルで出来ておるな。ワシの知り合いが作ったかと思ったが、どうやら違うようだな」


「そういうのわかるんです?」


「ほれ、ここに銘が入っておる。知り合いであればわかるからの」


 そう言って見せてくれた先、遊底部分にサインのようなものが掘り込まれていてカッコイイ感じ。

 返してもらったそれのマガジンを外し、そこに書かれている術式のようなものを見せる。


「これって魔法の術式ですよね? これも作った人がやるんです?」


「いや、そいつは魔術士の仕事だ。稀に両方できるドワーフもおるが、ワシにはさっぱりだな」


 そう言ってマガジンを手に取ったゼルムさんだが、やはり術式そのものはよくわからないらしい。けど、


「どう使うかはようわからんが、こいつがすごいってことはわかるぞ。このサイズのもんに魔法付与できるのは、かなり腕の立つ魔術士だ」


 呆れたようにそう言ってマガジンを返してくれる。

 えーっと、このサイズってマガジンのことだよね?


「えーっと、この指輪にも魔法付与されてるんだけど」


 同じことを思ったチョコが右手を見せると、


「おいおい、こいつはまたすごいな。これを作れるのは国に仕えるレベルの魔術士か、その上の賢者様ぐらいだぞ」


 と驚くゼルムさん。

 えーっと……そもそも魔導人形を作った人、イコール、カスタマーサポートさんだったと思う。

 つまり、そのカスタマーサポートさんがすごい魔術士っていうことなので……


「えーっと『白銀の館』ってすごい魔術士の人がいるんですよね?」


「おお、そうだった。そもそも『白銀の館』を作ったのは賢者様という話だ。お前さんらが持っとるそれは賢者様が作ったもんだろうよ」


 えー……


「あのカスタマーサポートさんが?」


「ってことになるね」


「あのふざけた取説書いた人だよね?」


「乙女イヤーは地獄耳とか書いてあったね」


 どう考えても、こっちの世界から行った人っぽい。

 ああ、だから、館長さんとかと知り合いだし、あっちに行っちゃった人の遺品をこっちの世界に送ろうとかいう考えが出るのか。

 今ごろ気づくのも間抜けな話だ……


「ゼルムさんはその賢者様がどういう人なのか知ってます?」


「知っとるものはほとんどおらんと思うぞ。当然、ワシも知らん」


 うーん、どんな人なのか気になってきた。

 でも、館長さんと同じぐらいの歳なんだろうし、もうちょっと手紙も丁寧に書くべきだったのかも?


『もうすぐ到着する』


 うん、それはまた今日終わってから聞くことにしよ。


***


 昨日はゴブリン一匹しか見なかったので、今日はサクサクと進む。

 隊列は先頭がチョコ。三メートルほど離れて私とゼルムさん。その後ろに智沙さん。

 今日のチョコは『不可視』タイプに設定中。その蒸着、もとい、換装を見たゼルムさんが驚いていたけど「詳しいことは後で」にしてもらう。

 そのゼルムさんも、六条建設のツナギの上に皮鎧を着て、手には大きな鉄ハンマーと物騒な感じ。すっごくドワーフっぽいけど。


「ん、到着かな」


「真っ直ぐ来るとすぐだね。非常照明用の魔晶石はありそう?」


「んー……、あ、これだ。これこれ。翔子、よろしく」


 チョコがしゃがんで指差した先の魔晶石に魔素を注ぐと、階段の天井が淡く光り始める。

 足元の階段はかなり綺麗な感じで、やっぱりこの階段ができたてほやほやなんだろうなーって。

 そのできたてにも非常照明が準備されてるのは、そういう仕様なのかな……


「じゃ、行きますよ」


 そう言って皆を見回すチョコ。

 それぞれが頷いたのを確認し、チョコを先頭にしてゆっくりと階段を降りていくんだけど。


「そういえば、魔物って階段を登って追いかけてきたりするんです?」


 と問うチョコ。それは私も気になる。


「そりゃ、追いかけてくるぞ。深い階層におったオーガが怒り狂って地上まで出てきたという話もあるくらいだからな」


 オーガ。図鑑で見た絵だとかなり大きい西洋風の鬼。熟練の傭兵が数人がかりでないと倒せないとか書いてあった。

 ただ、それよりも……


「階段でモブリセできないんだ」


「ゲームじゃない〜」


「ホントのことさ〜」


 ……ごめんなさい。

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