23. 翔子と報告会
本邸の方に戻ってきた私、チョコ、美琴さん、智沙さんは、昨日通された応接室へと入る。
館長さんはまだ来てない感じかな、と思ったら、
「よくやってくれたぜ!」
バンっと奥の扉が開いて館長さんが現れると、私とチョコにガッツリと抱きつく。
「ちょっ!」
「汚れますから!」
「気にしねーよ!」
二人して助けてーって美琴さんと智沙さんを見ても苦笑いしてるし。
ただ、このままだと話が進まないと思ったのか、
「館長、報告を始めさせてください」
「おう!」
美琴さんがそう言ってくれたお陰で解放された私たちは、昨日と同じ長ソファーに。向かいにも同じように美琴さんと智沙さん。一人掛けの豪華なソファーに館長さんが腰を下ろす。
いつの間にか来ていたメイドさんがスッと入ってきて、アイスコーヒーを人数分置いて退室していった。それを見送った美琴さんはノーパソを開き、智沙さんは今日の出来事を話し始める。
「では、私から」
今朝の出発から現地に到着、私とチョコの着替え、ダンジョンを照らす仕組み、ゴブリンとの遭遇、扉を開けてドワーフさんたちとの合流、食料提供、調査続行からの地下二階への階段の発見と順を追って話していく。
時折、私たちの方を見て、認識の齟齬がないかを確認してくれたが、私たちから間違いを指摘するような部分はなかった。
「現在、救出したドワーフと呼ばれる種族の皆さんには、用意してあった仮設住宅に入ってもらいました。入浴、夕食後にリーダーであるゼルム殿に情報提供を願う予定です」
「よしよし、初日に無傷で七人も救出できたのは幸先いいぜ」
と満面の笑みを浮かべる館長さん。そして、美琴さんの方を向く。
「美琴、今日のことと、その七人を保護したことはあっちに伝えてくれ」
「わかりました。報告は毎日行いますか?」
「んー、まあ、大事があったらでいいだろ。こまけーこと伝えてもな」
まあ、今日のことは大事だろうし、カスタマーサポートさんに伝えて、向こうの最新情報とすり合わせておいた方がいいよね。
「翔子ちゃんたちから気になることはねーか?」
館長さんからそう振られたので、気になっていたことを伝えておくことに。
「えーっと、智沙さんが向こうの言葉を話せるようになってます。多分、ダンジョンに潜ってたからだと思います」
「マジかよ。智沙、自覚あんのか?」
「これといった自覚はないのですが、いつの間にか話せるようになっていたようです」
それを聞いて私とチョコの方を見る一同。
「ダンジョンで魔素を体に取り込むと、向こうの言語を覚えるんだと思うんです。私が読んだことがある向こうの本に書かれていた推測なんですが」
「そいつは体に悪い……わけはねーのか。翔子ちゃんが強くなったのとおんなじってことでいいのか?」
「多分そうだと思います」
館長さんはそれを聞いて少し考え込んだのち、智沙さんに告げる。
「智沙。美琴と翔子ちゃんからいろいろ全部聞いとけ。それでも問題ないと思うなら、明日からも同じ仕事を頼む」
「わかりました」
そう答える智沙さんの表情を見る限りは、何を聞いても「じゃ、リタイアします」とは言わない感じ。
まあ、体内魔素に関しては、魔素を浴びずにいれば数日で抜けると思うんだけど、それもまだ確信を得てないし、言語能力に関してはなんとも言えない……
「他にはねーか?」
「あ、えっと、後でゼルムさんに事情聴取をするって話なんですが、できれば明日以降もゼルムさんにはダンジョンに同行して欲しいなと」
「居てくれた方が助かるのか?」
「はい。もう少し詳しい話を聞かないとですけど、あのダンジョンについて詳しく知ってるみたいですし、次に捜索対象を見つけた時のフォローも頼めそうかなって」
それを聞いて、智沙さんを見る館長さん。
智沙さんもそれに賛成なのか頷いてくれる。
「わかった。けどよ、そのゼルムってのが了解したらだぜ?」
「それはもちろん。それで、説得のためにこっちのことは全部話していいですか?」
「まあ、しゃーねーな。ついでに、しばらくこっから出せねーことは伝えといてくれ。いろいろ問題になると困る」
「わかりました」
はー、まずは館長さんのオッケーもらえて良かった。
帰り道にチョコがゼルムさんに聞いた感じだと、地下二階以降についてもいろいろ知ってそうだったし、何よりダンジョンっていうものに詳しそうなんだよね……
***
報告を終え、別邸に戻ってお風呂と夕飯をいただいてから、仮設長屋を訪れた。
もちろん、ゼルムさんに事情を聞くのと明日以降のお手伝いをお願いするため。
「おう、嬢ちゃんら、やっときたか!」
ゼルムさん、一人食堂で待っていたっぽいんだけど、話するって連絡してたっけ? それに、なんかビール飲んでるっぽいんだけど?
「飲んでます?」
「飲んどるが、これくらいは飲んどるうちに入らんぞ」
そう言ってジョッキを空にする。まあ、ドワーフは酒飲みらしいからいいのかな。
ちらっと美琴さん、智沙さんの方を見ると、
「みなさん成人のようでしたし、少しならいいかと思いまして」
と美琴さん。まあいいけど。
「さて、ワシに聞きたいことがたくさんあるんじゃろう。ワシも聞きたいことがあるんで待っておった」
「察しが良くて助かります」
まずはこちらから。大前提である世界が違うことを話す。そして、ゼルムさんたちが潜っていたダンジョンがこっちの世界に来てしまったことを。
そこまで話した上で、しばらくは仮設長屋生活を続けてもらう必要があることを伝えた。
「ふむ……」
「驚かないんですね」
「ワシは若い頃は傭兵として魔物を狩っておったしな。違う世界から来る人間の話は聞いておる。ワシらがその違う世界の方に来てしまうのもありえんことではない」
ゼルムさんが冷静にそう返してくれる。どっちかというと世界が違う話に智沙さんの方が驚いてる感じ? 顔に出てな……ちょっと眉間がピクピクしてる。
「ただ、このことを今こっちの世界で知ってるのは、私たちと私たちの上司だけなので、しばらくは大人しくしてもらえますか? ゼルムさんたちの世界に戻る方法は……」
「美琴さん、アイリスフィアに戻る方法って?」
「戻る方法は、向こうの世界の『白銀の館』の人が探してくれています」
チョコ、美琴さん、フォローありがとう。言い始めてから「どうすんの?」って思ったよ……
「えーっと、ゼルムさんの世界の『白銀の館』の人が探してくれてるそうです」
「んん? お嬢ちゃんらは『白銀の館』の関係者なのか?」
「え、ええ、そうですけど?」
ゼルムさんも知ってる感じ?
「まあ、それなら話は早い。ワシらは『白銀の館』の依頼でダンジョンの部屋に扉をつけに行っておったからな」
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