19. 翔子と最初の枝道
「この明かりはどれくらい持つんだ?」
「一応、本には一日程度とは書かれてましたが、実際どうなのかはなんともです」
ダンジョンがこっちの世界とあっちの世界に分断されたっていうのもあって、照明機能が十全に動くとも思えない。
早くに消えてしまうかもしれないし、逆に長持ちするかもしれない。長持ちしてしまうと、それはそれで目立つので、帰りに魔晶石から魔素を抜いて帰る予定だ。
「では、このランタンは持って行った方が良さそうだな」
「はい。この先もうまくいくかどうかわからないのでお願いします」
本に書いてあるのが正しければ、通路の非常用魔晶石は一定距離ごとにあるらしい。
あの予備の魔晶石が割れてたりするとダメだろうし、バックアップとして持ってきておいてもらえると助かるかな。まあ、魔法で同じことはできるんだけど。
「じゃ、進むよ?」
「うん、よろしく」
チョコが三メートルほど先行するのをついて行く。
明るくなっているのは通路のある程度先までで、そこまでが一区画って扱いなんだと思う。
しばらくは自衛隊さんたちが通った道なので、さほど気をつけて歩かなくてもという感じ。
で、最初の別れ道へと到達する。
「右側が枝道だよね」
「そっちは暗いまま?」
「うん。区画が違うっぽい?」
今の道の明かりが差し込んでいる部分はいいけど、その先は真っ暗なんだろう。
「気をつけてね」
「うん」
今日は枝道も全て網羅する前提なので、枝道の方も明るくしておきたい。なので、同様に非常用の魔晶石を探してもらう。
「あった。翔子、お願い」
「私が警戒しておこう」
智沙さんがそういって先頭に仁王立ちしてくれる。
いつの間にか手には警棒が握られていた。というか、なんとなくだけど剣道でもやっているような雰囲気がして頼もしい。
「ありがとうございます」
私は素早くしゃがんで魔晶石に魔素を込めると、枝道も天井からの蛍光灯のような明かりに照らされる。
暗くて見えていなかったが、どうやら先に進むと左へと曲がっているようだ。
「じゃ、進みましょ」
「翔子、多分何かいる」
突然、チョコがそんなことを言った。
「了解。気をつけて」
その言葉に頷いたチョコが少し慎重に進み……曲がり角からその先を覗き見ると『止まれ』のハンドサインが出された。よくネタ画像にされて、ネタの内容だけ覚えられちゃってるアレだけど、ちゃんと元のを調べたことがあるので正しく理解できる。
覗き見をやめたチョコがこちらを向き『敵』、続いて『1』ということは一人、いや、一匹か。
私が頷き返すと、チョコは再び覗き見を始め……『こっちに来い』のサイン。
「智沙さんはここで後ろを警戒してください」
小声でそう伝え、私はできるだけ足音を立てずにチョコのところまで近づく。
「ゴブリンが一匹だけ。どうする?」
「私がこれを試すよ。フォローお願い」
「ん、ちょうどいいね」
私が白銀色の魔導拳銃を取り出してセーフティーを外して見せると、チョコは納得してくれたようだ。
チョコと位置をかわって覗き込むと……濁った緑色の肌を持つ猿っぽい魔物、蔵書部屋の魔物図鑑で見たゴブリンがフラフラしている。
割と群れて行動する魔物らしいんだけど、はぐれちゃった感じかな。あいつが自衛隊を襲ったやつな気がする。
「行くよ」
「おけ」
私は角を飛び出し片膝をつくと、両手で魔導銃をしっかりと握って狙いをつける。
その気配に当然のように気づいたゴブリンがこちらを見て、
「キシャー!」
奇声をあげて襲いかかって来た。
正直、もっと恐怖心が湧いてくるのかと思ったんだけど、すぐ後ろにチョコがいてくれるせいか、冷静なままでいられる。
きっちりと照準を定め、胴体中心に向けて三発撃った。
「ギャッ!」
反動は全く無く、軽い風切り音だけを残して飛んでいった氷の弾丸、その三発が全て命中してゴブリンの胸に風穴を開けた。
ゴブリンは何が起きたのかさっぱりわからないまま、ばったりと前に倒れる。もうちょっと足止めぐらいの威力だと思ってたんだけど予想以上。
「全弾命中だね。それにしても……」
「うん、強すぎだよね。っと、智沙さん、こっちへ」
その言葉にそわそわしていた智沙さんが駆けてくる。
「大丈夫か!?」
「はい。あれを見てください」
立ち上がり、倒れているゴブリンを指さす。
あれこれ説明するよりも見てもらう方が早いし。
「なんだあれは……。未確認生物というのはアレのことなのか?」
「ですね。ゴブリンと言って人に危害を加える輩です。もう死んでるよね?」
「うん、索敵に反応しないからね」
とチョコ。
それなら確認しにいっても大丈夫だろう。
「近くで確認しましょう」
「平気なのか? 有毒な物質など出ていないのか?」
「変な感じはしないので大丈夫だと思います」
心配する智沙さんにチョコがそう答える。
変な感じがしないとか感覚的な答えでいいの? って気がしたけど、智沙さんはそれに納得したっぽい。
近づくとうつ伏せに倒れたゴブリンの背中に三発分の穴が空いていて、紫色のドロっとした血?が流れ出ていた。
やっぱり思ったほど気持ち悪くならないのは、やっぱり『俺ツエー』の影響なのかな。まあ、全然人に見えない魔物だっていうのもあるんだろうけど。
「これはどうするんだ?」
「放っておけば消えるそうです」
「……」
智沙さんが無言になってしまう。
そもそもゴブリンの存在がもう想定の範囲外だし、それが死んだら消えるとか言われても……なんだろう。
私が読んだダンジョン本には『魔素は魔素に』とか書かれていたので、もうそういうものだと思ってもらうことにする。なんか似たような言い回し聞いたことあるよ。
「進みましょうか」
「あ、ああ、了解した」
先に見えるのはおそらく扉だが、閉まったままになっているのが気になる。
ゲームだとだいたいこういう部屋ってモンスターハウスかボス部屋なんだよね……
「扉だね」
「だねー」
両開きの扉で中央に取っ手がついているタイプ。
うちの地下にある訓練場と似たような感じなので、特殊な魔法がかけられてなければ開くと思うんだけど。
「開けないのか?」
「中に何かいそうだな、と……」
「うん」
向こうのほうが数が多いと、どうしても開けた側が不利になる気がする。
とはいえ、閉まったままになっているのは、向こうに何もいないか、向こうから開けられないのか、開けるほどの知能を持ってないか。
何もいなければいいんだけど、どうもそんな感じがしない。どうしたものかな……
「その、素人考えだが、ノックしてみたらどうだ?」
「「あっ」」
向こうに誰もいなければ反応なし。誰かが居て話が通じるなら返事が来そう。魔物が溜まってるならギャーギャー言いそうだし。
うん、一番単純な解決方法だね……
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