第3章 2011年 その11  思い出

   「回想」


二晩の旅の夜汽車の座席より転がり落ちき 姉弟ともども

              ==蒸気機関車で鹿児島より青森まで昭和29年


弘前の港なりしか桜とふ 美しきものあるを知り初む


リンと聞く短冊もろき風鈴の津軽の音よ 風強まりぬ 


春や春山たたずみて さ緑の土手に光れる津軽の小川


朝霧の彼方へかすむ電柱も 物思はせし登校の道  ==山陰の町


遠きころ更級さらしな日記の姫君の物狂ひてのち 哀れ世を知る  ==源氏物語ファン


不思議かな房総半島平らなる 石器時代の果てなき空はも ==昔、上総の国




   「退職者」


アメリカのドラマの続編来春と 退職者にて過ぐるまま待つ


陽射しなき部屋に幾年住みたるか はなはだしくも黴は笑ひて


秋深み 照り翳りする縁側に残り毛糸を鉤針に編む


戸も開けず籠るふたりに細々と たつきの柱個人年金


ブランドの腕時計もう用無しとソーラー電池を 要に動く





   「秋のイメージ」


アベリアと金木犀の路 母を看に白に紅さすむくげを曲がる


母を看に急ぎし坂の夕星とアベリアの香の 思ひ出セット


年々に咲きてぞくれし紫の桔梗一もと 置き去りにせし


人群るる動物園は夕映えてガラス越しなる獅子の 遠き眼

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