第3章 2011年 その10  孫うた

   「供花」


返歌してネット歌壇に遊ぶ間に へ供ふべき菊は咲きつつ


幻と 玉の体は消え果てて白骨しらほねとなりたるしらじらと


母われの無闇に言の葉つづるのは 真なる何か現はるるかと


得も言へずゆかしき面の健気さを報はれをらむ 天のうてなに




   「対話」


珍しく音聞かせたる風鈴は北国生まれ 冬めく風に


軒端からはずせし風鈴 ドアノブに吊るせばコンとノックしてくる


ポーチュラカ霊気を浴びて甦る どうするつもり根は切ったのに


おじさんが「気持悪いよ暑すぎて」トンカチしたり雑草抜いたり




   「秋思」


心憂くワード開けばひらりとぞイルカの出づる 瞳賢し


夜に聞く屋根の雨音 安らぎの深き息する柔き夜具うち


夢を見てたれにぞ告ぐる 夢のごと仰ぎみる人けふも現はる


言えぬことあれば 歌にもできぬゆゑ漏らす言の葉じぐざぐと舞ふ


空広きネットの窓から見る茜 旗雲ならむ布のいく筋 ==ブログに見る写真




   「秋風」


房総に山も紅葉も見えずして 銀のすすきと黄菊のみなり


海に生れ裏街道をヒイフウと獣めく風 この雨戸まで


かがみつつ裏道帰る シャッターを鳴らす夜風とコートの抗ひ


もみぢ降る おはりの時は鋭さのゆるびたる指乾ける音す


北風が朝の小窓に貼りつきて 千の声して轟きうがつ




   「ゆうくん」


カレンダーの裏や紙切れ 孫の書くひよろひよろの線有り難きもの


ゆうくんが天使の声で初めての モチモチオイデ言ってくれたり


その声の可愛く嬉し 夕空になべての悩み放り捨てなむ


ゆうくんと心を交はす言葉にて 普通なれども特別なりし


小柄にて言葉遅しと戸惑へり 敏き子なるをわが老婆心


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