第3章 2011年 その7 変わらず短歌

   「インターネット無し」


ネット無くつながり無くてヒグラシの真似したくなる 調べ独りに


友三人あれどリアルかデジタルか 花の話に泣きごとを混ぜ


過ぎ去れば戻せぬ時を ぼろぼろと価値などなきと知りつつ使ふ


紅つけずしらが隠さず背を伸ばしクリームだけの せめて闊歩す


くちなしの白さ重さよ 馥郁ふくいくと香のたつらむに雨足しげし




   「歌と挌闘」


ふとみると十日も詠まぬ心もて 右往左往のこよみの印


軽薄に涌き出づる詩句 えいままよ胸深く居て書かねば非在


日常の歌を詠まむとエッセイのごとく書き継ぐ びつしり頁に


感覚を研ぎ澄ます旅するならば あしたの浜辺 渓谷もよし




   「庭のすべりひゆ」


公園に夏定番の花なれど わが庭のすべりひゆゆゑ窓より笑まふ


忘れ得ぬ日に言霊はきらめくに すべりひゆ見て哀れ忘るる


からたちの花の小さきに驚きて 旋律のなほ愛しまるかも

                   ==島倉千代子ではありません


からたちのき棘に触れ切に待つ 歌の真実まろき金色 ==北原白秋です


庭草は我が子らのごと それぞれの形を成して日照りに負けぬ


死ぬほどの苦しみならば よく堪へしそれまでの日を褒めてぞやらむ


文月末 歳を重ねて宝石のばらまかれゐる庭すべりひゆ




   「父の墓」


弟の病み嫁の病み 思はざる径へ踏み込み平野へ下る


またも発つ 彼方の岸へわがうからいづれ目見ゆと想ふ小夜月


向かふべき岸辺はあるや 菩提樹の木下涼しく物理の涯てに


お盆近く父ひとり居る熱き穴 縁者すべてに呻吟続けば       

                    ==弟の最期の笑みを見たころ


熱風にさらされ悲し 誰ひとり心頭滅却できもせず南無


父の墓に烈火の草抜き 汗飛ばしうは言のごと怪しき会話





   「晴れやらず」


人間にもの事の意味わかるはずなくば 得てして不幸を招く


朝九時の西側の陰 さはさはと海風まとひ太極に舞ふ  ==庭で太極拳


百人の自死せぬ日なくアナウンス聞く駅の端 熱風おどろ


山之辺の吾子の墓にも熱風の吹くや 涼しき精霊遊ぶ


不幸なくば 傲慢軽薄限りなく情け知らざる我となりしか


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