第Ⅵ話:「試合開始前」

 ☆★☆



 追試当日。つまり夏休み明け。

 その日の授業は午前だけなので模擬戦が行われるのは昼食後。

 場所は学内にあるアリーナ。普段は魔導や異能力の実技や訓練、部活で使われている場所で結界が張れるため観客の安全は保証されている。

 観客席の座席は全て埋まっており、立ち見の人までいる一方、闘技場内には十人程しかいない。イスルギとその取り巻き+αの合計九名と審判役の教師。肝心のカイはまだいない。


「……チッ!アイツ……逃げたか?」


 イライラしているイスルギ。貧乏ゆすりをしている。その手には両手持ちの巨大な戦斧バトルアックスが握られている。

 そめてれを取り巻き達が宥いるが、あまり効果はない。

 そのため取り巻きの一人が教師に提案する。


「先生、もうアイツの不戦敗でいいんじゃないですか?」

「……それもそうだな」


 腕時計を確認すると、開始時間までもう残り僅か。

 それならもう終わりにしてもいいだろう。

 それに――


(どうせ結果も見えている)


 カイは実技の成績は壊滅的。使える魔法は初歩かつ単純な身体強化のみなうえ異能力も戦闘技術もない。だからこそ模擬戦をしても連戦連敗。

 対するイスルギは実技の成績は高い。戦闘力も中々高く、見た目通り強力な一撃を叩きこむパワーファイター。近接戦闘主体の魔導士――魔導戦士である。

 一対一でも勝者は誰か一目瞭然。しかもイスルギはカイを痛めつけるために取り巻きとその友人まで呼んでいた。……一応強力な一撃を叩きこむには周りのサポートがいるのが良いのでスピードファイターや後衛がいれば尚良いのだがいくら何でも呼びすぎである。因みに構成は八人の内五人が炎、雷、氷、回復、二属性(彼の場合は炎、雷)使いの魔導術士。残り三人が剣、槍、盾を使う魔導戦士である。


(そういえば……今日はアイツ見てないな)


 審判役の教師がふと思う。

 カイは入学以来無遅刻無欠勤だったのだが、今日はいなかった。

 一体どうしたのだろうか?諦めたのだろうか?……因みに彼はカイが遅れてくる事を知らない。単なる教師同士の報連相不足である。


「(まあいいか。)試合終了。勝s「遅れました~」

「「「「「「!?」」」」」」


 その声に全員が驚く。そして声のした方向を向く。

 そこにはいつの間にかカイが静かに佇んでいた。


「……まだギリギリ平気ですよね?」

「あ、ああ」


 カイの疑問に頷く教師。

 何とか平静を装っているが内心驚いていた。


(アイツいつの間に……)


 気配を全く感じなかった。

 一体どうなっているのだろう。

 そんなことを思っていると。


「遅かったな!無能!」


 イスルギが取り巻きを連れてカイに近づいて来た。


「退学になる準備は出来たか?」

「塵掃除をしなくちゃな」

「死んだら墓は立ててやるよ。安心して死ね」


 そんなことを言っている取り巻きにハイトは一瞥して。


「……なんて言うんだっけ。こういう時」


 そう言いながらこめかみを触る。

 何かを思い出す時のカイの癖。

 そして――


「シィー」


 口の前に人差し指をあてる。

 思い出すは先輩。メイドでありながらしょっちゅう人を煽る。心友自分のご主人様すら煽って毒舌を吐き、時にはプロレス技を掛けていた(笑)。

 そんな友人を思い出しながらイスルギと取り巻きに告げる。


「――静かに。あまり喋らない方がいい。弱く見える」

「ア!?」

「それにさ……」


 相手は自分を邪魔だと排斥しようとする者達。

 それに――


「口が臭いんだよ。空気が汚れるだろう?囀るな」


 そんな輩と仲良くしようとは微塵も思わない。

 だからこそこういう態度にする


「ア!?」

「テメエ!」

「ぶっ殺してやる!」


 その言葉に取り巻きが飛び出そうとするが。


「落ち着けオメエら」


 イスルギが止める。

 どうやら怒りが一周回って冷静になったらしい。


「でも塵が……」

「気にすんな。戯言だと思って受け流せ」


 イスルギは取り巻きを落ち着かせ教師を目配せ。

 それに教師は頷く。


「……両方共静かに。所定の位置に付け」


 その言葉に両者頷き五メートル程離れる。

 因みにこの距離だがイスルギとカイが近接戦闘主体だからこそこの距離である。

 そして教師がルールの説明を始める。

 とは言え――そんなものないに等しい。

 ルールは致死性が高い技、後遺症が残る技は使用禁止。……当たり前だが“三大禁術技”も禁止。それ以外は何をしても良いらしい。

 因みにハイトの勝利条件はイスルギとその取り巻き+α全員の戦闘不能。

 気絶させるか、戦闘続行不可能と審判が判断する。

 更に、降参は認められず、無限に相手を痛めつけられるということ。

 完全に向こう有利である。

 だが……


(……なんでこいつ平然としているんだ?)


 カイは平然としているどころか不敵な笑みすら浮かべていた。

 それに何か嫌な予感が覚えるイスルギだった。

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